巫女さん座談会 神社死闘篇

●●●登場人物●●●

ウズメさん
巫女さん(21) 
年長者で国粋主義者 
好きな作家は三島由紀夫

サグメちゃん
巫女さん(18) 
ケミカルなナゴムギャル
好きな作家は澁澤龍彦

シコメちゃん
巫女さん(14) 
PTSDの幽霊族
好きな作家は美嘉(『恋空』)

〔すべての作画:うそつきさん〕



   

「自分のしたことがわかってるの!? ちゃんと反省しなさい!」

「……」
「ちわーっス……って、あれ、なんか取り込み中?」

「あーん、サグメちゃーん!」

「ど、どうしたのウズメ姐さん!?」

「あたし、人生の先達としてシコメちゃんを正しい道に導く自信がなくなってきたわ。
だってあの子、あたしに隠れて社務所であんな本を読んでたんだもの……」
「なになに、エロ本とかBL本とか、そういう系? そんなにキツいやつ読んでた?」

「ううん、ケータイ小説」
「って、おいおい。ケータイ小説かよ。そんなに怒るほどのものじゃ……」
「いいえ、あんな低劣なものを読むだなんて、絶対に許せるものではないわ。世の中!狂ってんだよ!狂ってんだよ!ガッシ!ボカ!」

「ギャ!グッワ!待ってくれ!待ってくれ!」

「『Deep Love』文体で会話するのはやめろ! オノマトペを会話文のなかに入れんな! 『!』のあとは1マスあけろ! どんだけ基本ができてないんだ」
「はあはあ……ごめんなさい。つい激昂して……。でも、読書家のサグメちゃんもあたしと同意見でしょ。あんな練度の低い文章とすかすか内容の本を読んだら、ただでさえパーなシコメちゃんに遠心力が加わって、重度のクルクルパーになってしまうわ」

「シコメがパーなのはともかく。ケータイ小説はべつにあってもいいと思うけど」

「ええーっ」
「ゆとり教育によって大量生産された読解障害者たちにはあの程度のものを与えておけばいいんだよ。搾取の対象でしかない愚民に高尚な文学を与えるのは豚に真珠。屠られるために生まれた豚に、サーロインのステーキを振舞う者がいようか。ははは」

「えっ、なにそのバイト巫女らしからぬ上から目線の帝王学」


「つまりね、読解力と感受性を去勢された豚どもから搾取するビジネスモデルを示してくれているんだよ、ケータイ小説の成功は! 安い三文話で感動できるバカ女どもには、必要以上のクオリティはマイナスにしかならないということ! 最低限の労力で最大限に搾取されやがれってんだ、バカ女どもめー」

(かわいそうに、この子はきっとクラスに友だちがいないのね……)

「ということで」
「あっ、はい」
「我々もこのビジネスチャンスに便乗すべきだと思います」

「あの、あたしたち巫女さんなので、便乗のしようがない気がします」
「神社といえば祝詞です。その祝詞をケータイ小説風のケータイ祝詞として売り出せば、バカな女たちがこぞって買うに違いありません!」
「そ、そうかしら」
「たとえば、祝詞のなかでも超有名な祓詞をケータイ小説風に翻訳するとこんなかんじになるね」








ケータイ祝詞
恋神〜Rolling Love〜

 

もしもあの日君に出会っていなければ

こんなに苦しくて

こんなに悲しくて

こんなに切なくて

かけまくもかしこい気分に
なっていなかったと思う・・

イザナギノミコト・・

いつか、また、もう一度、天の柱をぐるぐる回りたい。

眩しく、透明で、果てしなく壮大な、二人だけの天津国で。

私はイザナミ・ミコト。
高校のとき、まわりの友達からはナミって呼ばれてた。

元カレのイザナギもナミって呼んでくれたし、
私はカレのことナギくん、って呼んでた。

私たちは超ラブラブで、若い二人はお互いのloveを
とどめることができなかった・・
つまり、二人の行きついた先は・・SEX・・

「いけないよ、私たち神さまなのに・・」

「いーじゃん。ホラ、お前は柱の右側から回れよ。
おれは反対から回るからな。二人が出会ったところで、
ランニング状態で立ち止まるんだぞ。いいな」

「えっ・・いや。ちょっと待ってよ」

「それいくぞー」

そして二人は・・一つになった・・

「どうだ、ナミ。はじめてのみとのまぐわひは?」

「うん・・よくわかんない。でも」

「でもなに?」

「なんだかちょっと・・もちもる悪い()・・」

つわりだった。
私はなんと、やったその日のうちに妊娠してしまったのだ。
初めてのSEX・・そして妊娠・・

衝撃的な体験の数々。でも、それだけではなかった。
私は更に、悲惨な体験をすることになったのだ。
その日の夜、私は出産をした。

でも。

産まれた子は、奇形児だった。

「ぎょえ〜。なんだコイツ。キモいな〜」

「ちょっと!ヒルコになんてこと言うのよ!」

「ヒルコってだれ?」

「この子の名前よ。さっき考えたの」

「へーそーなんだ。でもそんなの関係ねーよ。
こんなガキ、葦舟に乗せて海に流そうぜー♪」

「えっ。でも。かわいそうだよ」

「わりぃわりぃ。俺も初めてだったから、
SEXのしかた間違えたみたい。
だからこんな奇形が生まれたんだ」

「そうだったんだ・・」

「今度は上手くやるからさ・・な、コイツ捨ててもう一回しようぜ」

「・・うん」

ナギに耳元でそうささやかれて、私も決心をした。

ヒルコを、海へ流す。それが皆にとって幸せなことだから。

「おらっ。さっさと流れていけっ。ガスッ、ガスッ」

ナギはヒルコを乗せた葦船を足で蹴って夜中の海に流した。
あたりはまっくらで、ヒルコの船はすぐにみえなくなった。

その後、私たちは正しいSEXをして、沢山の子どもを産んだ。

私たちは幸福だった。

でも。

そのひとときの幸福は、けっして長く続かなかった・・




「手の施しようがありません。ご愁傷様です」

医者は俺にそう言った。

そんな馬鹿な。昨晩まで元気だったナミが・・死ぬ?

「もしかしてナミは不治の病なんですか? 白血病?」

「不治の病ではありません。そもそも私は産婦人科医です」

「えーっ!なんで産婦人科にナミが?」

「妊娠したからです」

「では、いったいどうしてナミが死にそうなんだ?」

「生まれてきたお子さんが火の神さまだったので、
奥さんの産道が焼けただれてしまったのです。
あっ、たった今死にました」

俺はキレた。理不尽なこの世界を、俺は許せなかった。
先輩から貰った十拳剣を握りしめ、俺は新生児室へ向かう。

「ギャ!グッワ!なにをするんだ!待ってくれ!」

「バキッ!ボコッ!どけっ、新生児室はここだなー」

「ヒーッ!助けてー!だれかー!」

俺は新生児室を警備していた警備の警備員をボコボコにし、
新生児室に侵入した。

そこには、ナミを焼き殺した俺の息子、カグツチがいた。

「お前みたいな奴がいるからいけないんだ!」

俺は十拳剣を振り下ろし、カグツチの首をはね飛ばした。

「世の中!狂ってんだよ!狂ってんだよ!」

飛び散ったカグツチの血しぶきは炎となり、
病院全体を火の手がおおった。
俺はからくも脱出したが、病院と、俺のことを知る
関係者たち、そしてナミの遺体は全て灰になった・・

「これで、いいんだ」

俺は泣いた。

この狂った世界で、俺は一人ぼっちだった。

「そうだ、ナミをこの世に連れ戻そう!!」

俺は名案なナイスアイディアを思いついた。

そして俺は・・黄泉國へと旅立った・・


(第一部完)





「ちょっ、第一部完って! 長いわよ! ワンピースのOPくらい長いわよ(二番まで歌う)!」
「いいんだよ、二部構成にしたほうが売れるんだから。馬鹿は脊髄反射で二冊買うでしょ」
「ううーっ。今年一番の感動……。すっごく泣けました」
「ええーっ! どこで!?」
「ほらね。バカ入れ食い! これで一山あてるゼーッ!」





ドガシャーン
「わっ、なになに!?」
「あーっ、本殿に落雷がっ!」
「本殿、燃えてる……」
「はー、神罰って本当にあるんですねー」
「ちょ、あんたが変なもの書いたせいでしょー! ああっ、指定文化財が燃えていくっ! ……世の中!狂ってんだよ!狂ってんだよ!」
  (つづく)


  そんなかんじの新展開。
  あいかわらず巫女さん座談会は楽しいなあ。書くのが。