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さてさて閑話休題。では、昨日松の根元付近において勃発した我が軍とモグラ軍の局地戦、 「松の根元土戦」の詳報を国民しょくんに伝えようと思う！ 昨日、我が軍の秘密兵器、対モグラ用筒状ワナ「回天地竜」を仕掛けた場所に赴く作戦参謀の私と作戦司令官(うちのじいさん) は、おどろくべきものを目のあたりにした。おどろきのあまり、思わずのらくろ文体に。 「ヤア へ 、アスコニ見ユルハ 一体ナンダラフ」 「司令官ドノ、アスコニ見ユルハ、キヤツラノ進軍シタアトニゴザル」 我が軍は松の木の右側にワナを仕掛けたのだが、我々が見たのは、木とワナを埋めた地点のちょうど 中間点あたりにモコモコとせり出した、にっくき(ほんとは別ににくくない)モグラが土中を通った跡だったのだ。 昨日はこんなのなかったべ、司令官がボソリとつぶやく。 トラトラトラ、我レ奇襲ニ成功セリ！ 喜び勇んで土を掘り返す我が軍はみな土まみれの汗まみれ、流れる汗が美しい。 「一尺ホド掘ッタダラフカ」 「ヤァ、出テキタ へ 」 ミミズ魚雷を震える手で取り出す我々。搭乗していた十数匹のミミズ二等兵の運命は？ そして、にっくきモグラめは、はたしてこの中に……？ 筒を持ち上げてみると、妙に軽い。不審に思った私が中を覗いてみると、全くのカラっぽであった。 モグラどころか、ミミズまでが残らず筒の外に逃げ出していたのだ。 「非国民ドモハ逃亡セリ。 テメエラノ血ハ何色ダ」 地団駄踏んで悔しがったところで、ミミズ二等兵は戻っては来ない。というか、取れたてピチピチな環形動物に 筒の中でじっとしていろという方がむしろ間違いであった。無下に彼らのみを責めることはできない。 ミミズ二等兵たちの家族には、彼らは敵軍とまみえ、軍人として誇り高き戦死を遂げたと伝えることにした。環形動物兵の身体 には、家族に送付する遺骨となるべき骨格自体が存在しないので、こういった場合においては便利といえば便利である。 司令官と今会戦の敗因を分析した。 筒に入ったモグラは、入り口に取り付けられた特殊なフタの構造のため入ったら最後、二度と出て来れない というのは先述の通りであるが(ミミズの抜け出るスキマは十分にある)、 実は、この筒の中には一方向からしか入ることは出来ないのである。今回の配置では右に、つまり 松の木の反対方向にワナの入り口を向けていた。しかし、モグラの現れた痕跡が確認されたのは松の木側、ワナの 左手であった。そう、我が軍は回天地竜の設置場所こそ的確だったものの、設置する 方向を読み違えてしまったのである。 作戦の失敗の責任を取り、作戦司令官は本国に召喚され、代わって私が以後の作戦の陣頭指揮を執ること となった(訳：僕のおじいちゃんは、モグラ捕りに飽きて車のワックスがけを始めてしまったので、 僕が独りで二回目のモグラ捕りワナの設置準備を始めた)。 もう失敗は許されない。固い決意を心に秘め、玉砕も辞さない覚悟の私は、 武運長久の千人針を握りしめつつもう一方の手で黙々と湿った土を掘り返し、ミミズ新兵を探し求め始めたのであった。 「お、大物ミミズみっけ。I WANT YOU！ お前とおれとは同期のサクラ！」 めちゃくちゃであった。というか、たのむから卒論を。面接対策を。 |