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サイトも10万ヒット達成したことだし、この機にサイトリニューアル、もっと便利でもっと親しみやすい内容を取り扱うサイトを目指そうではないか諸君！ というような趣旨の訓示を、僕の妄想の、マンガでいうところのモヤモヤモヤとのび太の頭頂部あたりからわき出る空想世界の中にだけ住む「死せる魂の会」理事長ドナルド・ガーギラス氏(46)がのたまうわけであり、同じく僕の創造した人跡未踏のパンゲアもうそうサンクチュアリ「妄想第四次」にのみ棲息する誇り高き「死せる魂の会」一般会員2400名も右手を天高くつき挙げてイー！ イー！ と声高に叫ぶものですから、「死せる魂の会」インターネットセクション主任であり、同時に我が第一人格でもある山崎ヒモロギさん(24)も確たる考えのないまま惰性の付和雷同マジックによって声高にイーイー叫ぶわけなんですが、そんな熱気と狂気に包まれた会場のドアを威勢よく開けて入ってきたのは前・死せる魂の会理事長、現在はガーギラス氏との会内権力闘争に敗れまんまとポストを追われてしまった黒田惣一郎氏(67)なんですが、というか黒田の親爺、僕は親愛の情をこめて彼をオヤジと呼ぶんですが、もちろん血のつながりはないんですが、僕の入会時より目をかけてくれ何かにつけ面倒を見てくれた彼に対して僕は実の親以上の尊敬と親愛の情をもって接しているんですが、例えば今のセクションの主任に僕のような若造が抜擢されたのも親爺が僕の情熱を高く買ってくれ、周囲の猛反対をおしのけてまでも僕が自由に仕事ができるポジションにおいてくれたからに他ならないのですが、そんな親爺が去った今ではこのポストにいまだおさまっていることに多少の後ろめたさと居心地の悪さを感じざるをえないのですが、しかし親爺は去り際僕の肩をガッシとつかんで「お前は残れ。お前までここを去れば誰がこの会を俺の理想に導くというのだ」ということを目を赤くして僕に言ったわけで、そんなわけで僕はいまだインターネットセクションで会の広報サイトの更新なんかをコツコツと続けているわけなんですが、そんな僕には目もくれず、親爺は壇上のガーギラス氏を睨みつけながら彼の足元まで続く赤じゅうたんをツカツカとゆっくりゆっくり歩いていくさまを、会員一同かたずを飲んで見守っていたわけなんですが、ガーギラス氏の高い鼻と親爺のしわくちゃの顔の中央に鎮座した団子鼻とがくっつきそうな距離にまで近づいたとき、開口一番親爺が 「私を定例会に呼ばないとはどういうわけだね。超☆名誉会長という閑職に追いやられたとはいえ、私とてこの歴史ある会の会員なのだぞ」 と張りのある声で叫んだ時にはガーギラス氏も少し驚いた様子ではありましたが、 「おや、通知が遅れましたかね。申し訳ありません」 とにべもなく、さらに憎たらしいことには 「もう一つ通知がそちらに行ったはずなんですが、どうやらそちらも遅れているようで。あなたは今月付けで超☆名誉会長から降任、大江戸ロケット裏番長というわけのわからぬ役職についてもらうことになっているのですよ。業務内容はそちらでてきとうに考えてください。ははは」 これには親爺も怒り心頭、怒りで言葉も発せないでいたのですが、それをせせら笑うかのように親爺を一瞥したガーギラスは何事もなかったかのようにスピーチを続けたのです。 「さて、先ほどの話の続きだが、今や21世紀、もう妖怪やUMAやキン肉マンなどと言っている時代ではない。こんな非オシャレ系サイトではまったくもってアクセスが稼げないのだよ。すべてはアクセス、アクセス数は全てに優先する。それが商業主義というものだろう諸君？ よってこれからはオシャレ系サイト、ハイソ系サイト、大衆に迎合するサイトを目指そうと思う。意義のある者は？」 ガーギラスに意見を申し立てられる一般会員などいるわけがないわけで、ガーギラスは表向きは経済誌の表紙を飾ることもある名うての企業家なわけですが、ウラの顔は殺人暗器を操るチャイニーズ・マフィアをしたがえたイタリアン・マフィアの頭目で、今も演壇の裾からグルグル回る鎖ガマの軌跡がチラリチラリと見えているんですが、そんなわけで一般会員はもちろん、会長も副会長も会計補佐も、ただただうつむいているばかりです。 「これからの『死せる魂の会』はよりハイソサエティーな貴族や華族あるいは皇族をターゲットとするためコンテンツを今以上にハイソな『フレンチたべある記ガイド』と『世界ワイン酩酊事典』とする。また、安定したアクセスを稼ぐため大衆向アダルトコンテンツも開始する。『子悪魔コギャルラブ図鑑』だ。もちろん怪力なんたら事典などという誰のおかずにもならぬようなダメコンテンツは即刻廃止である。この決定に対し、何か意見のあるものは？」 ガーギラスはギロリと会場全体を見渡します。その横に立ち尽くしただワナワナと震える親爺の小さな背中。その小さく丸まった背中を見て、僕は思わず立ち上がりました。親爺のサイトを守るために。否、親爺とオレの夢を守るために。 「意義あり！」 ガーギラスが右の眉をグイと吊り上げてけげんな顔で僕を見据えます。蛇に睨まれたカエルのごとく、僕の足はガタガタと震えています。しかし、しかしこれ以上ガーギラスの好きにはさせない。オレと親爺がコツコツと作り上げてきた手作りのサイトを、何も知らない連中の手で商業主義に毒されてたまるものか。僕はピシャリと両足をたたき、おのれを奮い立たせました。 「意義あり！ 意義があります」 「ほう？ 言ってみたまえ」 「コギャルよりも巫女さんのエッチな画像のほうがみんな興奮したり萌えたりすると思います。タイトルは『巫女さん天国！ 天の石屋戸ご開帳！？』でどうですか！ 清楚であるべき巫女さんがあんな姿やこんな姿で開けたりしめたり大興奮……」 わざわざ壇上から降りてきてあらんかぎりの力をこめたステッキでバシバシ僕を打擲する親爺と打擲されて亀のようにうずくまる僕を残して定例会は進行していきます。 「私のリサーチによれば、人気のある日記系サイトの管理人はみんなモーニング娘。が大好き、むしろだいすっき、であることが判明している。よって明日からの日記風はモー娘。以外の記述は一切禁止。それに際して、会員各自は今配った用紙にお気に入りのメンバーを一名記名し、会場出口にあるアンケートボックスに入れること。集計結果によって「死せる魂の会」一押しのモー娘。メンバー。を決定することになるので、各自よく考えて決めること」 僕を打ちすえていたステッキが親爺の手からすべり落ち、床に落ちてカランと寂しい音を立てました。 「モー娘。だって？ おい、ヒモ坊(僕のことです)、おめえ、モー娘。ってえと、つまりあれか」 「そうだよ。こないだリーダーが脱退したあのグループだよ」 「するってえと、リッチー・ブラックモアの？」 「どこの世界にモー娘。から脱退するリッチーがいるんだよ。ホラ、こないだ親爺が酪農家のドキュメントと勘違いして観ていた番組に出ていた……」 「ああ、『モー。大変でした』だな。道理で線の細い牧場の娘だと思っとった」 「すぐ気づけよ。観おわっても気づかないでいるんだからな……」 「あの明るく健康的な娘どもがモー娘。か……なんてぇこった、『死せる魂の会』のコンセプト『わんぱくサブカル路線』とは180度正反対じゃねえか」 「そんなコンセプトがあったのかよ親爺。しかもそれって角度としては45度くらいだと思うけど……それはさておき、俺は困ったことにモー娘。メンバーの名前を一人も言えないんだ。ぜんたい今メンバーが何人いるかも皆目見当がつかないんだ。なにしろオレ、社会にアンテナはってないから……」 「ヒモ坊、これは計略だぜ。オレの息のかかった自己世界埋没型サブカル会員を会から一掃するためのガーギラスの陰謀だ」 「ああ、わかってる。畜生、新理事長の野郎。そうはいくか」 僕たちが悔しさに歯ぎしりをしている間に、ガーギラスは今まさに演台から去ろうとするところでした。 「追え、ヒモ坊、今を逃したらヤツと直談判できるチャンスはねえ！」 「ああ、わかってるぜ、親爺！」 言うが早いか、僕はステッキで打擲されてキズだらけになった体を引きずりつつ、演台めがけて駆け出していました。 「待ってください理事長！」 壇上に駆け上がって立ち去ろうとする理事長の肩を掴んだまではよかったのですが、裾からは鎖ガマを振り回した辮髪の男たちが五人も出てきて、自分がのっぴきならない状況に陥ってしまっていることにここで初めて気づいたのです。そう、この展開は既に仕組まれていた、全てが策略だったのです。 「くっくっく。これでようやく旧体制のゴミ掃除も完了というわけだ……趙、やってしまえ！」 ガーギラスの合図を待っていたかのように、四方からめいめいの暗器を振りかざした中国人が僕めがけて飛び掛ってきます。僕はすっかり観念して、というよりも恐ろしくて目をつぶりました。 ……あたりが静寂に包まれ、僕にとっては何時間もの長い長い時間が流れたような気がします。しかし実際には数秒しか経っていなかったことでしょう。僕はなんともありませんでした。どこも痛くない。たしかに五人のチャイニーズ・マフィアは僕めがけて鎖ガマ片手に襲いかかってきたはずなのに……僕は恐る恐る目を開けてみました。すると眼前には驚くべき光景が広がっていたのです。五人の殺し屋たちはみな一様に僕のまわりに突っ伏してピクピクと痙攣していたのです。僕は、一人のマフィアの眉間に不思議なものが突き刺さっているのを見つけました。 「これは……フルタ製のおもしろ食玩『妖怪根付』じゃないか！ 彩色ずみの木魚達磨だ！」 舞台の裾で慌しい足音が響いたかとおもうと、今度はイタリアン・マフィアが三人ほど、銃器を手に理事長を取り囲みました。みな理事長子飼いの構成員たちです。しかしその構成員達も次々と倒れていきました。会場のいずこからか恐るべきスピードで飛んでくるフルタの妖怪根付が正確にマフィアの眉間を貫いていくのです。 「だっ、誰だ！？」 さすがに狼狽するガーギラス理事長。しかし、僕は知っています。こんな芸当ができる男はこの世に一人しかいません。 「親爺！」 「へへへ。オレの腕もにぶっちゃいねえようだ。どうだい理事長、ウチの若造の話を聞いてやってはくれねえかい？」 (続く) (続けていいですか？) |