9月8日(土)


〔前回のあらすじ〕
　おっす、おれヒモロギ。おれと黒田のオヤジの魂のウェブサイト「死せる魂の会」を乗っ取ろうとするガーギラス新理事長の悪行に待ったをかけたまではよかったんだケド、 まんまと連中のワナにハマっちまって大ピンチ！　総勢五人のスネーク・ヘッズに囲まれちゃって、一時は涅槃逝き確定かと思ったんだけど、 オヤジの放った連弾音速妖怪根付のおかげで形勢逆転！　みてろよガーギラス、もうお前らのスキにはさせないゼ！


「へへへ。オレの腕もにぶっちゃいねえようだ。どうだい理事長、ウチの若造の話を聞いてやってはくれねえかい？」
　振り向けば、指と指の間に幾つもの妖怪根付を挟んだ両手を交差させながら不敵に笑う黒田の親爺の姿がそこにあったわけで、これにはさしものガーギラス理事長もみじろぎも出来ないまま額のあたりから冷や汗をタラリと一筋たらしたのでした。
「……よろしい。聞くだけでよいというのなら、ええ、聞きましょうとも。しかし、暴力はよくないですよ」
　慇懃な態度で再び演壇の中央へと向かうガーギラスは、
「さて、話とはなにかね？」
　と素早くいつもの冷たい声色をつくり、右の眉をくいとあげ、ネクタイを締めなおしながら横柄に僕のほうに向き直りました。
「異議があります。理事長が先ほど提言した全ての改革案に対して、私は異議があります！」
「ほう？　詳しく述べてみたまえ」
「われわれの会は今まで妖怪とUMAとキン肉マンに関する情報を顧客に提供することでここまで続けることができました。いわば10万アクセスの原動力となったのは妖怪とUMAとキン肉マンです。しかし、理事長はサイトをフレンチとコギャルとモーニング娘。だいすっきサイトに代えるとおっしゃる。それはたしかにアクセスが稼げるかもしれない。しかし、しかしそれは今まで『死せる魂の会』を見てくれた人々への裏切りです！　あなたには、10万人のクリックパワーの重みというものがわかっていない！」
「10万の重み？　ふふふ、わかっているとも！　なにしろ10万ものクリックパワーをエネルギーに変換すればビキニ環礁の一つや二つなど跡形もなく木っ端微塵にできるのだからねぇ。ふはははは、なんとも素晴らしいエネルギーではないか！」
「……なに？　なんだって？」
「そしてモーニング娘。をダシに使えば、20万、30万、いや、100万CP(クリックパワー)もの莫大なエネルギーを抽出することさえ容易なのだよ！　その時こそ、世界は圧倒的な力を持つ私の足元にひれ伏すのだ！　ふはははは」
「貴様、そんなことを企んでいたのか！　ならば益々サイト路線変更を許すことは出来ない！」
「くっくっく。もう遅いのだよ。計画は既に動き始めている。もう止まる事はできないのだ」
「なにっ！？」
「セントラルFTPのCP変換作業は既に始まっているのだよ」
「セントラルFTP？　……親爺、セントラルFTPとはなんなんだ？」
「ああ、お前が知らないのもムリはない。セントラルFTPとは、この場所、つまり死せる魂記念会館の中央にそびえ立つFTPモラトリアムタワーの最上階に設置された中枢システムのことだ。セントラルFTPには今まで我が会が獲得したCP(クリックパワー)、つまり10万CPがそっくり手つかずのまま圧縮保存されている。ヘタにいじくりゃ核よりタチが悪いシロモノなんで、普段は人を寄せつけないよう厳重な警備が敷かれ、その存在も極秘事項として秘匿されているってワケよ」
「お解りかね？　そしてその莫大なCPから原水爆以上のエネルギーを抽出し有効活用しようというのが我が計画の一環なのだよ。計画では、あと一年で20万CPの変換が終了することになっている」
「20万？　そんなCPがどこにある？　『死せる魂の会』は3年越しでようやく10万アクセスを達成したんだぞ！　残りの10万CPをたった一年で獲得できるわけがない！」
「そう！　だからこそモーニング娘。なのだよ！　彼女らのお宝画像とＨなアイコラさえあれば10万CPなど3ヶ月で獲得可能、との試算が出ている！」
「ならばなおさらモーニング娘。サイトに路線変更することは許さん！」
「まあ、話は最後まで聞きたまえ。いいかね、CP抽出作業は既に始まっている。これは綿密に計算されプログラムされた機械処理だ。これを無理に停止させようとすれば セキュリティーシステムが作動する。私の手によって少々プログラムを手荒に組替えられた悪魔のセキュリティーシステムがね！　よって、途中でこの作業を中止することは不可能というわけだ！」
「へへっ。無理に停止させなくとも、オレたちは貴様のアクセス稼ぎを妨害して抽出すべきCPを枯渇させてやるだけの話さ」
「くっくっく。君は何もわかっていない。考えてもみたまえ。走り出したプログラムはもはや止まる術を知らないのだよ。もし来年までに20万アクセスが達成できないとしても、システムは20万CPがセントラルに貯蓄されているものとして抽出作業を続ける。そこでもし20万CPが獲得できていなければ、セントラルタンクの内気圧は下がりつづけ、クリックパワーの真空放電が起こり、それによって生じる大規模なクリッカブルバースト現象によって、この建物はもちろんその半径数百キロを巻き込む地域が一瞬のうちに灰塵と帰すのだよ。これがどういうことかお解りだろう？　そう、つまり、東京が壊滅するということなのだよ！」
「なに……そんな、そんなバカなっ……」
「つまり君たちに出来ることは二つしかない。私の世界征服のためのサイト改革に協力するか、傍観者を気取って指を咥えて見ているか、の二つだけなのだよ。まかり間違っても、私の崇高なる計画に対する妨害、などという選択肢がありえないことは、もうお分かりだろう？　ふははははははは」

　僕と親爺のこだわりサイトをアクセス重視のモー娘。LOVEサイトマシーンにして無理にでもあと10万アクセスを稼がねば東京は消滅する、かといって20万アクセス達成に尽力したところで、それはガーギラスの世界征服という野望に対する協力行為に他ならない……野心家ガーギラスの明かしたあまりにも、あまりにも衝撃的な事実に、僕も親爺も、そして会場の会員たちも、言葉一つ発することができないまま、壇上で狂ったように笑いつづけるガーギラス理事長をただ呆然と見つめることしかできないでいたのです。



(続く)　(続くのか)　(うんざり)　(うんざり)　(もううんざり)