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こないだ友人と行ってきたんですよ、ゲイバー。男二人で。 僕はもちろん女性にしか興味がないノーマルさん、いわゆるノンケさんなわけで、今回のゲイバー行きは単に好奇心を惹起されて友人の誘いに乗っただけの話なんですが、いやもう、なんつうか、好奇心は猫をころしますね。今回の件で、僕はもうちょっと好奇心を抑える術を学ぶべきだと思いましたよ。 僕は同性愛者の方に対して悪い感情はぜんぜん抱いていないし、ふつうに友達づきあいもしているし、彼らと接することにまったく抵抗はないのですが、店内の人間すべてが全員そういう方だったりするというのはさすがに初めての経験で、なんだか圧倒されてしまいました。そんなこんなで一時間、カウンターに座っているしましまポロシャツの男としきりに目が合ってしまっていかんともしがたくなったすえ、お店の人にうっかり「ぼ、ぼくノンケなんすよ」などと言わなくてもいいことをポロリと漏らし、完璧にひかれてしまいました。隣に座っていた友人に膝をつねられ、逃げるように店から退出。 友人から「初めて行く店では絶対にノンケとか言わないように」との訓辞を受け、反省しつつその足で二軒目のゲイバーへ(行くのか)。今度こそ頑張らねば(何をだ)。 「おれはゲイ、ゲイでマッチョ。おれはおとこ好き、おとこが好きなマッチョ。おれは新宿二丁目ずき、二丁目フリークなマッチョ。マッチョマッチョマッチョ……」とマッチョ呪文をブツブツ呟くことによって自己暗示をかけ、ここに臨時同性愛者ヒモロギ・ザ・マッチョヒーローが誕生したのでした。筋肉も心なしかちょっとMUKI-MUKIになった気がしたりなんかして、ちょっとしたRPGです。ロール・プレイング・ゲームです。ドラクエでいう勇者が同性愛者になっただけの話です。ははは。なんだ。かんたんだ。ようし、MUKI-MUKIマッスルパワーで、いくゼー、同性愛のひとたちのそうくつにとつげきー！ と二軒目に足を踏み入れた刹那、「ああ〜ン、いらっしゃ〜いン！ あッあ〜ン！」と、ドリフのコントのように強烈なキャラのバーテンさんに迎えられ、僕は早くもロールプレイを忘れて我にかえらざるをえませんでした。 「ねえお名前は、ボク？ ボク？ メルシー・ボク〜ん？(口癖らしいです)」 「は、はあ。ヒモロギです」 「あっあ〜ン、それじゃあ、ヒモ子ちゃんねえ〜ン。あっあ〜ン！」 「……」 「ヒモ子ちゃんはタチなの？ ネコなの？ ねえボク？ ボク？ メルシー・ボク〜ん？」 「は、はあ。しいていえば、攻めるほう、ですかねえやっぱり」 「あっあ〜ン！ ちなみにアタシは両方よお〜ン。あっあ〜ン！」 「……」 「それでヒモ子は胸毛ボーボーの子とかOKなわけ？ ねえボク？ ボク？ メルシー・ボク〜ん？」 「は、はあ。そりゃまあ、ないほうがいいなあ、やっぱし」 「あっあ〜ン！ ちなみにアタシはツルツルよお〜ン。あっあ〜ン！」 「……」 「それで結局ヒモ子は、今まで何人の男と付き合ったのよ、ねえボク？ ボク？ メル(後略)」 「いや、それは、まあ、その……」 「あっあ〜ン！ なにさ、カマトトぶっちゃってさ！ イヤだわ〜ン！」 「……」 かようなですね、まるで噛み合わないバーテンさんとの会話が小一時間、いや、二時間以上続いたでしょうか。僕は自分を偽ることに疲れ果て、いいかげんお家に帰りたくなってしまったのですが、友人がこのおもしろバーテンさんを気に入ったようでなかなか店を出ようとしません。しょうがないので、隣に座っていた気のいいおじさんとしりあがり寿の話をしてびみょうなひとときを過ごしました。 楽しかったことは楽しかったんですが、当分は行かなくてもいいかなと。おなかいっぱいだし。バーテンさんにもなんか悪いし。おなかいっぱいだし。僕カマトトだし。それになにより、おなかいっぱいだし。 |