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いやしかし奥さん、おどろきです。なにがおどろきかって、わが死せる魂の会調べによりますと、昨日の日記と、ちょうど一年前の日記を読み比べてみた結果、僕は今年、昨年となんら変わらぬ正月を過ごしてしまったという事実が判明しました。イトコから借りたゲームに熱中し、気づけば正月が終わっているという。まったく進歩していないという。まったくもっていかんともしがたい。それになんなんだ昨年の日記のオチは。とつじょ北京原人化するだなんて、あんなオトし方はありえない。 さて、それはそれとして今日起こった出来事を書きつづります。えー、今日起きたおもしろ珍事といえば、なんだろう、タンスの角に足の小指をぶつけたことくらいかな。おそるべき速度と的確な角度でもって激突したものだから、そのあまりの衝撃〔インパクト〕で、俺がアイツでアイツが俺で式に、この場合は僕がタンスでタンスが僕で的に魂が入れ替わってしまうかと思いましたよ。いやはや、すんでのところで入れ替わらずに済んでよかったよかった。タンスなんかと体が入れ替わったところでなんのドラマもありやしませんし。 いやしかし、いま日記を書いている僕がタンスではなく元の僕じしんであることを、第三者に対していったいどのように証明できるというだろうか。同様に、タンスの角に小指をぶつけた経験のあるあなたも、そう、あなたも、正真正銘のあなた自身の魂が宿った本物のあなたであるかどうかを、私たちは普段と変わらないあなたの外見のみでは判別できようはずもないのだ。ああ、もしかしたら街は人の皮をかぶったタンス人間であふれているのかもしれない。そして彼らはひそかに我ら生粋たる人類種を放逐し、この地上にタンスの王国を開闢せしめんと闇に策動しているのかもしれない。なんと恐ろしい！ 今や計画は既に最終段階に移行しており、自分以外の街の住民全員がタンス人間にすり替わっているとしたら…… そんなそら恐ろしい想像をしたくはないが、僕はなにもB級SFの話をしているわけではない、これは決してありえない話ではないのである！ ……あなたの隣人は、ほんとうに人間ですか？ それとも…………ギャーー！ まあ、こんなオトし方も果たしてどうかと。そもそもタンスに自我はない。人間ってやつはたったの一年ではなかなか進歩しないものなんだなあ。 |