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前回の日記のネタに使ったこともあって、ふと大林宣彦監督の『転校生』が観たくなり、ふらふらとレンタルビデオ店に出掛けてきました。 目当てのビデオをなかなか見つけられなかったので、棚の整理をしていた女性店員に 「あのう、『転校生』を探しているんですけど」 と尋ねてみたところ、その店員さんはあたりの客の顔をキョトキョトと見回し、ややあってから何か閃いたような顔で「少々お待ちください。機械で検索してみます」と言ってレジのほうへ走り去っていきました。どうやらこの店員さん、映画のタイトルだと気づかず本当に僕の転校生を探していたようです。なんで僕が自分のクラスの転校生のゆくえをレンタルビデオ店の店員に問わなければならないのでしょう。そもそも、顔も知らないのにどうやって探していたんでしょう転校生を。んー、あまりに天然すぎます。 そんな彼女の、イルクーツクのタイガに囲まれた清流に棲む巨大イトウもはだしで、というか尾ビレで逃げ出すほどの天然ぶりをたいへんほほえましく思った僕は、他の映画のタイトルでも試してみようと考え、『転校生』を置いていないことを告げに戻ってきた店員さんに、 「あのう、実はですね。『ジャズ大名』も探しているんですけど」 と声をひそめて尋ねてみたところ、これにかぎっては「はい、こちらになります！」とハキハキ笑顔でもって、チョンマゲ姿の古谷一行がペット吹き吹きはしゃいでいるパッケージが印象的な、まごうことなき『ジャズ大名』のビデオそのものを持ってきてくれました。まあ、いくらなんでも、うっかりジャズ大名本人を探すほどの天然ぶりなんてありえませんね。僕も僕で、とっさのことだったので『ジャズ大名』しか思い浮かばなかったのがくやまれます。この天然店員さんのことですから、『Shall We ダンス？』というタイトルを挙げれば突然チャチャチャを踊りだしたり、「『ツイスター』ありますか？」と尋ねればどこからかツイスターゲームを持ってきて、ついでに二人でゲームを楽しんじゃったりなんかして、あっ、手が足が腿がうなじがとかいって一気に親密の度合いを増してしまったり、あるいは「『フル・モンティ』を探しているんですが」と尋ねることによって「えっ、じゃあ、私でよければ……」と彼女はつぶやき、恥じらいながらも一枚一枚するすると、みたいなことになったりしたかもしれないのになあ。まったく、もったいないことをしたもんですよ。なにが『ジャズ大名』なものか。とっさに出てくる映画のタイトルが『ジャズ大名』っていうのはいったいどういうことなんだ。 結局、たいして観たいわけでもなかった『ジャズ大名』と、それとついでに『イレイザーヘッド』を借りて家路に着きました。まあ、そんなこんなで、平和な日常の一コマです。日本に生まれてよかったよ。 |