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PTSDのはずなのにノコノコ人前に出てきてはトラウマであるはずの人質事件の詳細をえんえんとしゃべり続ける今井青年のことを、なんといわれようとも僕は好きになれません。まあ、好きになる必要もとりたててないんですけどね。全人類愛してどないすんねん、みたいな。 今井くんといえば爬虫類顔、とりわけヘビに似ている生き物ということで有名ですが、僕は巳年ということもあってかこのヘビという生き物に対してはわりと愛着を感じているんですよ。 まず、造形がかっこいい。くねくねしてる。爬虫類まで進化しておきながら手も肢もないだなんて、地球環境をそうとうナメているとしか思えませんよね。生存競争上等！ みたいな。地球創生期のむかしに「あん？ 手？ いらねーよ！ あ、なに？ 肢？ だからいらねーっつーの！」みたいなやりとりが神さまとの間にあったにちがいありません。わかりにくくたとえるならば、ブレーキペダルを踏む足がないのに、それでもバイクにまたがって地平のかなたに走り去っていった『狂い咲きサンダーロード』の特攻隊長ジンさんのごときかっこうのよさ！ この無鉄砲さはもはやロックだ！ ヘビのロックスピリットは旧約聖書にもしかと記されています。なにしろ神さまの秘蔵っ子アダムさんとイブさんをそそのかして仲たがいさせるという反体制ぶり。いわば創世以来、初めて神さまに一泡ふかせたのがヘビだというのだからロックンロールもいいとこ。マリリン・マンソンの2000年先をゆくアンチクライストスーパースターといえるでしょう。やった、ヘビすごい！ ヘビすごい！ ところがです。ヘビはこんなにもクールだというのに、どうも世間一般のイメージは軒並みよろしくない。ふと気になったので僕、今日の昼間に新宿の街頭でヘビのイメージに対する路上調査を行なってみたんですよ。 「あなたはヘビに対してどのようなイメージを抱いていますか？」 有効回答数2265件。その中で圧倒的に多かった回答が「執念深い」。次に「陰湿」、その他「冷血」「丸呑み」「毒」「気持ち悪い」等々、ロクなものがありませんでした。おのれ新宿人。生存競争のマストアイテムである四肢をサラリと捨て去ってみせたヘビをつかまえて「執念深い」だなんて。無知蒙昧ということばは、きっと新宿人のためにあるにちがいありません。 この「ヘビは執念深い」という間違った認識の影響のもと、 「巳年生まれは執念深い」という俗信も巷間に流布しています。そんなばかな。もしこの俗信が本当であるならば、巳年生まれの学級では 「おーい、給食係のタモツ！ オレの分のプリンがないぞう」 「……カッちゃんさあ、この前僕のゼリーを食べたよね。だから今日はカッちゃんの分のプリン僕が貰うよ」 「この前ってお前、それって四年生の時のことだろ。そんな昔の話を……あっ、なにをするリカっぺ！ オレのパンを返せ！」 「おととしの遠足の時、アタシのお弁当をひっくり返したのに謝らなかったでしょう。そのときのお返しよ。あんたのパンなんかこうしてやるっ！ こうしてっ！」 「あーっ。よくもオレのバタつきパンを踏みにじったな。ただじゃおかないぞ！ まてー」 「きゃー！ たすけてー！」 「やめなさいカツヒコくん。リカっぺさんはレディーですよ」 「ハカセ！ 見てただろ、ひどいんだぜ、リカっぺのやつったらさあ」 「悪いのはカツヒコくん、あなたです！」 「なにをっ、学級委員のくせしてえこひいきしやがって」 「えこひいきしますとも。なぜなら一年生のとき、初めてメガネを着用し緊張のおももちで登校したわたしに向かってあなたは『ケント・デリカットみたい』という暴言を吐いたからです。ズバリゆるせません！」 「そんなこと根に持ってたのか！？ 今までずっと！？」 「えいっ！」 「あっ、リカっぺ！ やめろ！ なんでサラダまでひっくり返すんだ！」 「幼稚園のクリスマス会のときの恨みよ！」 「覚えてねーよ！ 先生、先生！ こいつらひどいんだよ！ いくら巳年生まれだからって、大昔のことでネチネチしやがって」 「そうかそうか、どれどれ……そりゃー！」 「うわーっ、オレのコンソメスープがーっ！ 先生っ！ なんで先生までっ！」 「ははははは。恨むなら十年前にオレをフッたお前の母親サチエと、オレからサチエを奪ったお前の親父を恨むんだな。オレはやつらの子供であるお前をいたぶって十年前の復讐を遂げるためこうして教師になったのさ」 「ゲーッ、も、もしかして先生も……」 「巳年生まれだっ！」 「ゲゲーッ！（カツヒコは遅生まれなので午年生まれ）」 みたいなことが日常茶飯に行われ、十二年に一度は怨恨に端を発した学級崩壊が続出する学年が存在することになってしまいます。しかし、実際にはそんなデータは出ていません。このことは巳年生まれがけっして執念深くないことの実証であり、ひいてはヘビが執念深くないことの証明にもつながるのです。（どうもこの三段論法は論法的に間違っている気がしないでもないですが、執念深くない巳年の僕なので、そのへんの瑣末な問題点にはまったくこだわりません。やあ、そんなことよりあの夕陽をみろよきれいだなあ！） というわけで、ヘビはみんなが思っているよりもクールでロックで執念深くない生き物なので、みんなもっとちゃんと真面目にヘビを愛してください。今井くんとヘビの姿を重ねたりしないでください。失礼ですよ。 |