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茶の間で夕飯を食べ終え自分の部屋に戻るまで、時間にして約３０分。その間に4ヶ所も蚊に刺され、なおかつ家族はその後もずっと茶の間で『渡る世間は鬼ばかり』なんぞを観ていたにもかかわらず誰も刺されていないという不公平極まりない事件が、昨夜我が家の茶の間で起きました。 昔っからこうなんですよ。僕は昔からとりわけ蚊に刺されやすい性質らしく、誰も刺されていないかたわらで僕だけ７ヶ所北斗七星状に刺されたりして、これがまた腫れるのなんの。逆に考えれば僕がいるおかげで周囲の人間はまったく蚊に刺されないわけで、なんなんだ、僕は持衰の一種ですか。はたまた蚊にのみフェロモンをふりまくモスキート版『天外君の華麗なる悩み』なのですか。どちらにせよわかりにくい喩えではあります。 人並み以上に蚊に苦しめられる体質ですので、じつは僕、けっこう「霊感」ならぬ「蚊感」のようなものが発達していて、あ、なんかこの部屋ちょっと怪しいなあ、蚊がいそうだなあ、というのが感覚的になんとなくわかるようになりました。あ、ヤバい！ と思うと案の定飛んでいやがるんです、憎き蚊のやつが。これってちょっとしたセブンセンシズですよね。見える、わたしにも蚊が見える！ こうやって人類は少しずつ進化していくんだね。 「蚊い感少女ヒモ子」 「ちょっとぉー、アタシいやだって言ってるでしょー、肝試しなんてー」 「ヒモ子〜、ここまで来たんだから諦めなよぉー。往生際が悪いゾー」 「ダメよぉ。アタシ、ビンビン感じるのよぉー。ここ絶対ヤバいんですけどー。ありえないんですけどー」 「おい、どうしたんだよヒモ子のやつ」 「あ、香取くん。気にしないで。ヒモ子って、けっこう“見えちゃう”タイプなのよ」 「マジで？ こえー」 「香取くんたちは先に行ってて。ヒモ子とアタシはアトから行くから」 「おう、早くこいよ」 「んもう、なにやってんのよヒモ子！ 香取くんとペアで夜道を歩けるチャンスなんだよ！ 男子って夜は基本的にケダモノ系でギラギラ系だから、もうなんだってありえちゃうんだぞ！」 「えー、でもあそこ絶対ヤバいもん！ すっごいヤバい空気感じるもん！」 「あそこって、今から行く墓場が？」 「ってゆーか、その脇のヤブが。アタシ、ふざけ半分でヤブをかき回したりしたら必ず手痛いしっぺ返しをくうと思うのよぉー」 「またまたー、この蚊感少女がー。蚊なんていないって！ 迷信だよ！」 「あっ、そこの茂みの陰に……」 「きゃっ、なに？ 霊！？」 「いや、蚊が飛んでた気が……」 「冗談やめてよ！ マジムカつく！ もういいよ、アタシ先行くからね！」 「待って、カヤ子！ どうしても行くっていうんなら、蚊よけのおまじないに聖十字架の刻印を押してあげる。ぎゅっぎゅっぎゅっ」 「いたた！ いたい！ 超まちがってる！ それって超まちがってる！ それは刺されたあとにやるやつでしょ！」 「あっ、いま見えた！ あそこにいる！ ヤバいヤバいヤバい！」 「えっ、なに？ 霊！？」 「いや、蚊が……」 「だからいねーっつってんだろ！ ……ちょっと、今度はなによ、お香焚いてんの？ 魔よけのお香かなんか？」 「いや、蚊取り線香を……」 「ムヒー！」（終） あの、まったく関係のない話で恐縮ですが、『ゾンビ屋れい子』って買いですか？ とつじょとして読んでみたくなりました。 |