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周囲を見渡せば『冬のソナタ』とか『世界の中心で愛をさけぶ』とか『あらすじで読む世界の名著』とかいうお子様ランチみたいなコンテツンばかりが目につき、僕はさっこんの日本の大衆文化の退行ぶりをたいへん嘆いておるのですけれども、そんななかにあって『藤岡弘、探検シリーズ』が民放でゴールデンタイムに放映されるという事実のみが日本大衆文化復興の唯一の光明だと思っていますいやマジで。マジでマジで。正気だってば。 今回でレポートはいったん完結しますが、『藤岡弘、探検シリーズ』を存分に楽しめるほどに爛熟した文化水準をすべての日本国民が身につける日がやってくるまで、僕は『探検シリーズ』をわんぱくにプッシュし続ける！ 「藤岡弘、探検隊シリーズ第五弾！ アマゾン縦断6000キロ 密林の恐怖イプピアーラ大追跡！ これが半魚人伝説の真実だ！」 その3 ○隊長のなかにくすぶり続けた「イプピアーラ実は立ちあがったワニ説」であったが、実際にワニを立たせてVTRと検証してみたところやっぱり違うことが判明。隊長の一念ワニをも立たす！ そして隊長の疑念は雲散霧消、もはや迷うところはない！ そのこころ明鏡止水！ 待ってろイプピアーラ！ ○イプピアーラの痕跡を求めジャングルに散った探検隊員。そこに突如ジャングルの猛威は 襲い掛かる！ 「うわーっ！」 叫び声が聴こえた場所にカメラが急行！ すると、田辺隊員が落ち葉に埋もれてわめいている！ なんと田辺隊員、魔境ジャングルにポッカリと口をあけた底の浅そうな底なし沼に、寝そべるような形ではまりこんで身動きが取れない状態になっているように見えなくもないではないか！ おそるべしアマゾン！ アマゾンの底なし沼は、たとえ底が浅くともハマるとなかなか抜け出せないのだ！ N「救出しようと下手に手を出せば共倒れになる！」 そこで隊長が取った行動は、周囲に茂っていた小枝をいつもの自然破壊専用ナタで伐採、80センチていどの長さの小枝を田辺にもたせてそれを引っ張るという画期的な方法！ ……にもかかわらず、枝を持たせた田辺の手首を引っ張って沼から引き上げる坂本隊員と渡辺隊員！ せっかくの隊長の機転が台無しである！ こらーっ！ ○底割れ底なし沼によってはかりしれぬダメージを受けた田辺隊員。そんな彼を心配し、率先して介抱にあたる隊長。隊長の隊員に対する慈母のごとき愛情に、われら視聴者も思わず涙をぬぐう！ しかし、介抱中に別働隊から無線連絡！ なんと付近で未接触インディオの痕跡を発見したという！ 「よーし！」 泥だらけで息も絶え絶えの田辺を打ち捨てて、ナタをたずさえジャングルの向こうにダッシュで走り去っていく藤岡隊長！ その変わり身の早さに驚き、他の隊員も後に続くことすら出来ず田辺のそばに立ち尽くす！ 隊長の機転の早さ、最優先すべき行動を瞬時に選び取る判断力のすばらしさはもはや神業！ そして脱帽、シャッポをぬぐゼー！ ○イプピアーラの情報を求め未接触インディオの村を探す一行！ 肩に食い込む荷物、照りつける太陽、しかしなおも探検隊は歩く、歩く！ N「探検隊の中に不平不満を口にする者はいない。イプピアーラの正体を突き止める、その目的のもと全員が結束し、鋼の精神が困難を突き破るのだ！」 またそういう、かっこいいこと言っちゃうんだから田中さんたらもう！ 鋼の精神！ こういう言葉の選び取り方、僕も学ばせていただきます！ 日本男児と生まれたからには『探検隊シリーズ』のみがこころの教科書！ どんとゆけ！ ○ジャングルにたそがれ迫る逢魔が刻。探検隊はキャンプ設営に取り掛かる。 N「これまで幾たびとなく修羅場をくぐり抜けてきた探検隊にとってキャンプを張ることはもはや手馴れたものだ！」 とかいって、ジャングルのど真ん中にとつぜんハンモックを設置し始める隊員たち！ テントも蚊帳もなしなのかっ！ 手馴れすぎだっ！ すげー！ ○キャンプ設営中、水辺にひそんでいたアナコンダに巻きつかれ絶叫する白鳥隊員。なんなんだろうこの人は毎回毎回。構ってもらえないと寂しくなっちゃうタイプの人なのだろうか。隊長も思わず口癖の「おいー！」を連発！ おいー！ 白鳥ー！ ○早朝そうそう緊急事態ぼっぱつ！ なんと、ハンモックで寝ていた隊長のうえにタランチュラが落ちてきたのだ！ 寝覚めの悪い低血圧ではジャングルでは生き残れない！ というか、やっぱりラフすぎると思ったんすよジャングルでハンモックだけっていうのは！ しかしさすがは隊長、あわてず騒がず、ナイフを使ってタランチュラを誘導、体から引き離すことに成功！ N「（タランチュラに噛まれると）場合によっては死に至ることもある！ しかし、隊長のオーラがそれを跳ね除けた！」 ギャガーン！ 隊長のオーラ超すごい！ 毒グモさえはねのけるオーラって一体！ よく芸能人一般を指して「オーラが出てる」とか言うけど、はっ、ちゃんちゃらおかしいゼー、ヘソがはんごうご飯を炊くぜー、キミたちのオーラでタランチュラを追い払えるかっつーの！ 並み居る芸能人とは格の違うオーラを放つ隊長に脱帽！ あっ、シャッポはさっき脱いじゃってたので、やけくそになって脱衣！ 全裸に正座に両手敬礼状態で番組を観る男がここに一人！ もはやその所作は「観る」という動詞の守備範囲を逸脱！ ○妙に人馴れしたマーモセットを発見する探検隊。もしかしたら近くに住むインディオの飼っていたサルかもしれない。インディオの居場所を知っているであろうサルを仲間にくわえ、探検隊はさらに邁進！ ○やがてインディオの村に到着！ しかし彼らは文明を拒絶して暮らす孤高の部族！ 言葉も分らず、交渉は難航をきわめる！ と、そのとき！ 一人の女性が白鳥の抱いているマーモセットの存在に気づいた！ なんと、このサルは女性の飼っていたペットだったのだ！ これを契機にインディオの警戒心を解くことに成功した探検隊！ なんというか、今回の展開はほんとうにドラマティックだ！ ○お互いの言葉がわからないため、イプピアーラの情報を集めようにもイプピアーラそのものをインディオに説明することが出来ない！ 焦燥に駆られる探検隊！ そんな時、隊長の面前で無作法にも坂本隊員がボリボリとおなかを掻き始めた！ 「どうした坂本？ さっきから掻いてばっかり」 おもむろに服をめくる坂本。すると、坂本の腹といわず背中といわず、体じゅうに無数のジンマシンが！ ダニのアレルギーによるものらしく、隊長は薬を塗るよう指示。隊員が薬を探すためにザックから取り出したイプピアーラの足跡の石膏。ぐうぜんそれを見たインディオは「チョーニンジャーテン」なる単語を連発。ようやくつながることばの回路！ イプピアーラはインディオの言葉でチョーニンジャーテンと呼ばれていたのだった！ なんだか『おろしや国酔夢譚』みたいで超ドラマティック！ ○インディオによれば、川の上流にある入り江がイプピアーラの棲み処であるという！ ついに定まった最終目的地！ 入り江の奥では例のくっきり足跡も発見！ こりゃあ、目指すゴールもそうとう近づいてきているもよう！ 出て来いイプピアーラ、出て来い、出て来い……と両手の五指を画面に向けてウネウネさせUMA招来のおまじないを熱心に唱えていたところを茶の間にやってきた祖父に見られてちと恥ずかしい僕。しかし今はそんなことを言っている場合ではないのだ！ 探検隊はもっと苦しい局面で必死に頑張っているのに、僕がここで恥ずかしがってどうするのか！ 羞恥心を捨てた僕は全裸のままで立ち上がり、ある一定のリズムをとりながら横に揺れたりバルシャークのポーズをとったりする「UMA出て来い体操」を始める！ 事態が呑み込めぬままとりあえず腰を下ろして煙草に火をつける祖父！ 画面の中と外、同時に異様な緊張が立ち込める！ ○徹底的な入り江大捜索作戦開始！ 魚群探知機を使用した水中探索作戦は空振りに終わるも、岸辺に設置した定点カメラには水面をすべるように泳ぐ謎の影が！ なんとまあいい仕事をするものだゼ、イプピアーラってやつは！ そして映像を見た祖父は「おお、あれはなんだ！？ カワウソか？ いや違う、背びれがある！」などというナイスな発言を！ 80年以上生きてるくせしてなんと純な男！ いいお客だ！ ○じわじわと包囲網を狭めていく探検隊！ しかしここで油断してはいけない！ 何故なら田中さんがこういうことをおっしゃっているからだ！ N「一瞬の気も抜けない緊迫の追跡！ 追い詰められたイプピアーラがいつ攻撃を仕掛けてくるとも限らない！ 水中でも陸上でも、常に危険はつきまとう！」 これを聞いた祖父も慄然！ 若かりし頃、冬は山にこもってクマを仕留め、夏はそれによって得た金でなんとなく過ごす、という半猟半ブラの生活を送ったというマタギもどきの祖父の危機センサーにひさびさに灯がともったのか、「うわー……あっ……」などという声が漏れ聞こえる！ そしてその声を聞きながらその脇で「UMA出て来い体操」を汗だくになりながら続ける僕！ いまや茶の間は阿鼻叫喚！ ○ソナーに映る謎の影！ いよいよイプピアーラがその姿を白日のもとに晒すのか！？ ……と思いきやただのでっかいカメであった。残念！ 隊長「カメか……」 祖父「カメか……」 ハモる二人。隊長と祖父の危機センサーが同調し始める！ そのはざまで腹をふり続ける僕！ まだ二十分残ってんのに茶の間は早くもクライマックス！ ○イプピアーラの通り道と思われる入り江奥の水中にネットを張り、手前の入り江に戻ろうとした探検隊が目にしたものは、入り江のくびれ部分を完全に遮断する倒木の壁！ 来た時はなかったはずの障害物によって、隊長らのカヌーは完全に孤立した！ これはもしや、イプピアーラの仕業なのかッ！ N「イプピアーラもまた、われらの動きを監視していることはもはや明白であった！」 おおっ、明白だったのかッ！ 田中さんがそう言うならば明白だッ！ ○なんと、もっとも危険な水中に隊長御自らがもぐり、木々の囲みを取り払うという作戦にうって出た！ しかし隊長、それはかなり危険なのではっ！？ N「イプピアーラのワナかもしれないのだ！ 水中では人間に勝ち目がない！」 ほら、田中さんもそう言っているじゃないですか！ やめてください、隊長のお体は隊長お一人のものではないんですよ！ N「隊員を身の危険に晒すわけにはいかなかった！」 た、隊長、あなたという人は！ そこまで隊員のことを！ 滂沱の涙が頬を打つ！ そして一方、こうふんのあまり開いた祖父の口、もはや閉じることを忘れて久しい！ ○水中で木々にロープを巻きつけ、それをカヌーの上の隊員に引かせ、なんとか障害物を撤去した探検隊。またも隊長のオーラのおかげでことなきを得た！ N「待っていても何も始まらない。我々は積極的に攻撃を仕掛けることにした！」 棒っきれを水面にバシャバシャたたきつけ、ネットの方向にイプピアーラを追いやる、という探検隊の「攻撃」が始まる！ いえーい、いっつああぐれっしぶー！ ○予期せぬ出来事！ ネットを引き上げようとしたその瞬間、強烈な力がネットを水中に引きずりこむ！ 渡辺、坂本、白鳥……隊員たちが次々と水面にたたきつけられていく！ あまりに突然の出来事ゆえ水中リモートカメラのコントロールも乱れに乱れ、画面に映るのは水中でもがく隊員の姿のみ！ またもイプピアーラにしてやられた形となった！ あとに残ったのは濡れネズミとなったダメ隊員たちと破壊し尽くされたネットのみ。くそう、おのれ半魚人、僕らの探検隊が、このままで、はっ、引き下がると、思うなよ、はっ、ほっ、などと、ブラウン管の前で尻を振りながら心の中でさけぶ僕。祖父は「なんだ！ カメか！？ さっきのカメが引っ張ったのか！？ すごいカメだ！」などと、基本的な話の流れが理解できていないもよう。もうわやくちゃだ！ ○ちなみに、「自然のダムで行く手をはばまれる」「ネット捕獲作戦を敢行するも失敗する」というのはいずれも前出の『大アマゾンの半魚人』とまったく同じ展開！ これは何を意味するのか！？ これはつまり、バルキマールの話にある通り『大アマゾンの半魚人』がイプピアーラをモデルとして作られた実にリアルな映画であったということを意味すると同時に、もう一つ、『大アマゾンの半魚人』を番組中で紹介しておきながらこういうかぶりまくりな展開へとつなげていく演出の恩田さんがどうしようもない天才であることをも意味するのだ！ ふつうはしないよねこういうことって！ ○陸上にて引き裂かれたカメの死体を発見した探検隊。死体はまだ新しい！ カメを食べた後、イプピアーラはいったいどこに向かったのか！ 足跡をたどりジャングルを彷徨う探検隊！ どこだ！？ どこにいる！？ 地上での追跡なら探検隊のほうが有利！ 勝機はわれらにあり！ やがて上っていた道が下りに転じ、視界が開ける。鬱蒼と生い茂る密林を抜けると、そこには対岸をはるか彼方に臨む大河が広がっていた…… イプピアーラの足跡はここで途切れている。あまりに広大なイプピアーラのホームグラウンドに隊員たちは呆然とする。しかし隊長だけは飽くなき闘志を燃やし続ける！ 「ようし、最後の手段だ！」 衛星携帯電話で一番近い町に連絡を取り、やがてやって来たのはなんと水上飛行機！ あらゆるマシンを駆使する藤岡探検隊！ 陸上、水上、そして空中、探検隊は縦横無尽に駆け巡る！ よーし、いっけー！ ……と思ったら、飛行機に乗ったとたんに流れ出す『ロッキー』のテーマ。えっ？ エンディングなの？ N「空からの捜索。だが、大アマゾンの自然の前に、もはや打つ手はなかった！」 あ、なかったんだ。そうなんだ。 探検隊シリーズの様式美ともいえる唐突な幕引きに慣れているプロ探検隊視聴家の僕とは異なり、ビギナーの祖父は「これで終わりなのか！？」と激しく狼狽、驚愕、やがて落胆。落胆のあまりただでさえ老けてる祖父がさらに老けこみ白い頭髪が数本はらはらと抜け落ちた！ ○いやあ、今回も素晴らしい番組をおがませていただいたなあ眼福眼福、この番組のおかげで僕は最低あと半年は無条件で快活に暮らしていけるなあ、とニコニコ笑顔の全裸姿、ほほえみ全裸モードでテレビの前にたたずんでいたところ、隊長が衝撃の発言を！ 「私の探検は、アマゾンに始まり、アマゾンに終わる」 ……えええっ！？ 終わる！？ これでシリーズ終了ってこと！？ 祖父に代わって今度は僕が狼狽、驚愕、目から光が消えうせ、発作に身を震わせる僕。そう言われれば、今回の探検は今までの総決算的な雰囲気が漂っていたような気もする…… 大ショックを受け足腰が立たなくなり、僕は九時になって『はぐれ刑事純情派』が始まってもテレビの前から動くことが出来ませんでした。僕はほんとうに悲しくなって目の前が真っ暗になってしまいました。 ○でも、僕は信じます。今回の探検が最後のアマゾン探検ではないことを。これからも探検隊シリーズが続いていくことを。『吉田栄作探検隊シリーズ』とかに世代交代せず、藤岡隊長のままでシリーズが存続することを。藤岡弘、探検隊と僕ら別働探検隊視聴班の探検はこれからも続く、なぜなら世界はいまだ謎に満ちているのだから！ 藤岡弘、探検隊がその使命を終えるとき、それは世界の謎が消滅した時に他ならないのだから！ だからゆこう、さあゆきましょう隊長！ いつものように「Vamos」と言ってください！ 隊長！ 藤岡隊長！ |