バレンタインデーをやりすごすため、先週からずっと奥飛騨の隠れ家に身をひそめていました。もてすぎるのも辛いもんです。

　 毎年毎年、バレンタインというイベントには苦しめられます。年々僕の男ぶりが増すにつれ貰うチョコの数もうなぎのぼり。一昨年なんて、世界人類の女子人口はざっと見積もって25億人程度だというのに、届いたチョコは1兆個弱。なに星人だ。僕にチョコを送ってくる女子の大半は一体なに星人なんだ。

　 1兆個のチョコはせまい家屋に収まるはずもなく、庭先にまではみ出し無造作に積み重ねられ、夏になっても手つかずのままでした。やがて溶けて腐ったチョコは、異臭騒動による近所とのいさかい、チョコ汚物の中から新種の軍隊アリ発生、その独特の色合いから我が家が「うんこ屋敷」呼ばわりされる等、様々な恐るべき弊害をもたらしたのです。


　 そうそう、昨年のバレンタインもさんざんでした。この時のことは皆さん記憶に新しいと思いますが、ほんとうに大変だったんですよ。

「僕はチョコはいりません。僕の代わりに、あなたの近くにいる恵まれない人に、僕に渡すはずだったチョコを渡してください」という慈愛に満ちたメッセージをネット、NHK、CNN、アルジャジーラ等を介して配信したはいいものの、どうしても僕に愛のメッセージを送りたいという女子の一人がとんちを働かせ、「2月14日に富士の裾野にみんなで集まって同時にジャンプし、着地の衝撃で地球をへこませ、なおかつその反対側のブラジルあたりを隆起させ、地球をハート型にしてヒモロギさんに私たちの愛の深さを伝えましょう！」という呼びかけを行なったのです。かくして約二十億の地球人女子と約1兆の地球外生命体のメスが富士の裾野に集結し、地球はパニックに陥りました。

　 あの時のことは鮮明に覚えています。携帯にはひっきりなしに各国の首脳から電話がかかってきて、「ヒモロギサーン、カノジョタチヲトメテクダサーイ。コノママデハチキュウハメツデース」とか懇願するわけですよ、カタカナで。本当にまいったなあ、この時ばかりは。
　 各国首脳陣に言われるまでもなく、この計画を阻止しないと地球はキュートなハート型となり、自転周期が狂い、なんかもうとにかくたいへんなことになってしまいます。富士の裾野にさっそうと降り立った僕は彼女らに向かってこう叫びました。

「やめろ！　僕はハートよりもクローバーのほうが好きなんだ！」

　地球をクローバー型にするのはさすがに難しいと悟ったのでしょう、女たちは三々五々と散っていきました。僕のとんちの勝利です。

　 かくして地球を崩壊の危機から救った僕。しかし、僕さえいなければ生じえなかった危機であったこともまた事実。僕は自分の男ぶりを呪い、いっそ死んでしまいたいとさえ思いました。しかし、僕が死ねば後を追って命を絶女子の数ははかりしれず。
　 死ぬこともままならない僕は悩んだすえ、今年のバレンタインは誰にも悟られない場所に姿を隠し、外界との連絡を一切絶ち、チョコもハタ迷惑な愛のメッセージも受け取らないことを固く誓い、かくして今の今まで奥飛騨に潜伏していたと、まあそういった次第であったのです。その甲斐あって、今年はチョコをまったく貰わずに済むことができました。本当に、本当に、ほんとうによかったです。ばんざーい！　今年もまた、地球の平和を、僕は守った！


　といったかんじで、僕には妄想という名のすてきな恋人がいるので、チョコとかもらわなくても平気です。