ここのところカラテの話ばかりで恐縮ですが、実は今日もカラテの話だよ。せやっ！　とりゃ！　うあたっ、あたっ！

　さいきん興味があるのは「自分は地球上の生物の中で何番目くらいに強いのか」ということ。かの大山倍達先生は、牛は楽勝で殺せたものの熊とは決着をつけるに至らなかったので、牛＜大山先生≦熊、よって「牛殺し」の称号を得ました。ならば僕は「なに殺し」になれるのか、どのへんの動物まで素手ゴロで倒すことが出来そうか、実際にナマの動物たちを曇りなきマナコでもってくわっと見定めてみようじゃないか、そんなことを考えて上野動物園に赴きました。それだけのためにね。それだけのために一人で動物園にね。……おお、空手バカだ！　空手に全てをかけたバカがここにいるぞ！

　上野動物園……それは世界各地の殺人動物たちが集う挌闘家の墓場。600円の入場料を払ってこの地獄に一歩足を踏み入れた途端、数多の歴戦を潜り抜けた私でさえ、膝の震えを止めることが出来なかったことを、今ここで正直に告白する。しかし、私はこれを恥とは思わない。かの大山師範も「ライオンに素手で勝てるという男は、猫とすら戦ったことのない人間であろう」と仰っている。「戦う」という行為の恐ろしさを真摯に受け止め、対戦相手のことを考えて来るべき戦いに恐怖することから戦いは始まるのだ。恐怖を知ることは最強への道を踏み出すための第一歩である。蛮勇などというものは、私の望む強さには最も不必要なものの一つなのである。

　以下、私が観察した挌闘動物たちを列記する。

○ジャイアントパンダ　
—白黒模様は屠った相手を悼むために！　四川発最終兵器！—

　観客に背を向け、ふてぶてしく寝そべるジャイアントパンダの巨体！　その背中から絶え間なく発せられる殺気！　間近で見ることではじめて理解できたパンダの恐るべき獰猛性の片鱗！　なんだあの鉤爪は！？　竹を裂くためだって！？　バカな！　あれほどまでに人体破壊に適した武器に、私は今までお目にかかったことがない！

強さ：★★★★
勝率（現在）：0％
勝率（三年の修業後）：0％

○シセンレッサーパンダ
—まさか二足で立つなんて！？　進化し続ける挌闘遺伝子！—

　ジャイアントパンダと比較すれば、笑ってしまうほど小さい。ジャイアントパンダ師父のような殺人鉤爪も持ち合わせてはいない。ははは、楽勝だね。

強さ：★
勝率（現在）：70％
勝率（三年の修業後）：100％

○シマフクロウ
—デカすぎて絶滅の危機！　矛盾したDNAが今宵も宙を舞う！—

　 実際に見てみるとかなり大きい。翼を拡げればどれほどの大きさになるのか見当もつかない。鉤爪も鋭い。ジャイアントパンダ師父の持つ鉤爪の圧倒的迫力に気おされてしまったせいか、私はすっかり鈎爪恐怖症になってしまったようだ。シマフクロウの持つ鉤爪にも、私はなんだか勝てないような気がする。

強さ：★★★
勝率（現在）：10％
勝率（三年の修業後）：60％

○フクロウ
—マニアの間で囁かれる「フクロウ暗闇最強説」！　ついに参戦！—

　 ならば普通のフクロウはどうか。シマフクロウよりも小さな体躯に、私は勝算を見出した。しかし、檻に据えつけられたプレートによれば「夜間視力は人間の100倍」とある。侮れない相手である。彼と戦う場合、時間と場所の選択には十分な注意が必要だ。

強さ：★★
勝率（現在）：50％
勝率（三年の修業後）：80％

○ハヤブサ
—最高速度300km/h！　動物界の神風特攻隊とはオレのことだ！—

　 剣技の「隼斬り」とか一式戦闘機の別名「隼」とか、やたら勇壮なイメージがあるハヤブサだが、実際に見るととても小さな鳥である。このサイズであれば、いくら速いとはいえ、今の自分でもそれなりに勝機があるのではないだろうか。

強さ：★★
勝率（現在）：50％
勝率（三年の修業後）：90％

○オジロワシ
—タカ科の威信を背に今飛び立つ！　イーグル界のカリスマ降臨！—
　 先のシマフクロウよりもずっと大きい猛禽類である。これはとても敵わないな、と思いながら檻の中のオジロワシを睨んでいたところ、檻の外のカラスに嘴でつつかれたオジロワシがすごすごと退散しているのを見た。意外と小心者なのかもしれない。初撃でひるませることが出来れば、十分勝機はあると見た！

強さ：★★
勝率（現在）：50％
勝率（三年の修業後）：90％

○コンドル
—最強？　いや、最凶だ。むしろ最狂だ！　死神を見てから死ね！—

「掃除屋」「死神」の異名を取る、得体の知れない不気味な相手である。その正体を見破るべく、檻の中のコンドルをじっと観察していたところ、一羽のコンドルが近くに寄ってきて白眼を剥いて私のほうを睨むので、たいへん恐ろしかった。思わず失禁するところであった。オジロワシとは逆に、こいつは対戦者の戦意を喪失させる術に長けているに違いない。

強さ：★★★
勝率（現在）：20％
勝率（三年の修業後）：40％

○シロテナガザル
—勝ち名乗りをあげるためには、この長い腕さえあればいい！—

　 両腕のリーチが異常に長く、まるで観空マンのような体型をしている。射程の長い腕から繰り出される攻撃は一見脅威に思えたが、腰が弱そうなので正拳の威力自体はさほどのものでもないだろう。打ち合いになれば負ける気はしない。

強さ：★★
勝率（現在）：60％
勝率（三年の修業後）：90％

○マクジャク
—その姿まさに孔雀明王！　仏の領域に足を踏み入れた戦士よ！—

　 明らかに戦闘に適していない羽根を引きずって歩いている。自分の力を過信するつもりは毛頭ないが、ことクジャク戦に関しては楽勝といっていいだろう。尾羽をつかんで動きを止め、心の臓に正拳一撃！　これで決まりである。ははは。

強さ：★
勝率（現在）：90％
勝率（三年の修業後）：100％

（つづく）