こないだ我が家の炊飯器が煙を吐いて爆発しました。爆発に巻き込まれた僕の髪の毛はちりちりになり、顔は真っ黒。一拍おいて僕は黒い煙を口から吐き出し、そしてバタンと後ろに倒れたものでした。

　それ以来、家で炊きたてごはんが食べられないという厳しい状況に。さしあたってパスタで飢えをしのいではいたものの、毎晩パスタなんつうイタ公が食べるようなおかしなものばかり食べていたせいで病気になってしまいました。メタボリックシンドロームよりもずっと恐ろしいといわれる生活習慣病、俗に言う「イタリア中毒」に。
　 イタ中の主な症状は、自傷行為（人差し指で自らの頬を突き刺しそれを更にぐりぐりねじりこむ）、異食症（ピッチの芝を食べる）、認知障害（いろいろ手広くやりすぎて、今となっては本職がなんなのかさっぱりわからない）などがあげられます。こうして病状を列記しているだけでも恐ろしい。

「わしはパスタの毒にやられてしまってもうだめじゃ……最期に白米のにぎりめしを腹いっぱい食いたかったのう。ラララ……」などと嗚咽しながら電話で家族に遺言を言い残したところ、家族はたいそう哀れがり、新しい炊飯器を買って送ってくれたのでした。やった！　新しい炊飯器だぞ！　これで美味しいごはんが炊けるぞ！　そして、いい年こいてなお親に家電をねだる僕のような人間はいっぺん麦のように頭をぎゅうっと踏まれたほうがいいぞ！

　それにしても、新しい炊飯器で炊いたごはんはとてもおいしいです。お米の一粒一粒がつややかに輝いており、とてもやわらかい。それでいてお米に芯が通っている。コメデンテです。コメデンテに炊き上げる釜の秘密は一体どこにあるのだろうか。

　 秘密を解き明かすべく、炊飯器の梱包箱をひっくり返してみたところ、そこには「七層圧釜でおいしく炊ける」なるコピーが。なんと七層！　そりゃうまく炊き上がるはずだ。七層だなんて大したもんです。

　よく「地獄の釜が開く」なんて言い回しがなされることからもわかるように、地獄というものは実は巨大なIHジャー炊飯器であるという事実はよく知られているところですが、その地獄は第一層から最下層の氷結地獄コキュートスまで合わせて九層に分かれています。世界最大の炊飯器は、実は九層圧釜なのです。しかるに僕の炊飯器は七層。世界最大が九層なのに対し、僕のマイ三合炊き炊飯器は七層。その差たった二層。うちの釜はサイズと比してかなりの高性能といえるのではないでしょうか。

　というような、どうでもいいようなことを考えていたら炊事の一挙一動が楽しくなりました。まず、計量カップで米をすくいとっては「ははは、みろ、米粒どもがゴミのようだ！」などとムスカな台詞で高笑い。「この計量カップをくぐるもの、一切の希望を捨てよ」と米粒を一粒一粒脅しつつ釜に投入。「アケローン川へようーこそ、ようーこそ、クックックックッ」などとカロン気分で素早く米をとぎ、「パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ！」と謎のじゅもんを唱えながら炊飯ボタンにタッチ。炊飯器から蒸気が吹き出すのを見ては、「おお、ついに永劫の炎に燃ゆる街・ディーテの市まで達しおったわい。ふはははは」などと笑い声もだんだんと悪魔化。蓋を開けてほくほくに炊き上がったごはんを見る頃には「ササニシキ……炊き上がってもきみは美しい……」などと何故かカイム化。挙句の果てには「これが、これがっ！　俺が身を捨てて研いだり炊いたりしたお米の正体か！　ゆるせん！　デ・ビール！」などとデビルマン化しながら可及的速やかにおいしくご飯をいただくという地獄七変化を堪能。地獄ごっこをして遊んでいるうちにおいしいご飯ができるだなんて、なんかこれってちょっとした奇跡。やっべ、炊事とかって超たのしーんですけどマジで。