こちらの日記をひんぱんに読んでくださっている方には、僕が新小岩在住であることは既に周知であるかと思います。ねー。みんな知ってるよねー。

　 また、新小岩が治安の乱れたMad Cityであるとか、新小岩界隈を歩いているだけでやくざにグーで殴られる危険性があるとか、新小岩界隈を歩いているだけで支那服を着た男に謎の拳法で腹をえぐられ摩訶不思議、生きながらにして腎臓を抜き取られる危険性があるとか、駅前には“ちんこ岩”なる男根を模した卑猥な石柱像が屹立しており、これが「新小岩」という地名の語源となっているのだけれども、地元の土民どもの間ではこの“ちんこ岩”なる奇岩を本尊とする邪悪な性宗教が今もなお地下で信仰されているため女性は夜道を歩くことままならぬとか、そういった新小岩にまつわるアンダーグラウンドな話も繰り返し紹介しているため、この街のマッドネスぶりについても既にご存知の方が多かろうと思います。なにしろ、日本最後の未踏破地帯〔テラ・インコグニタ〕である新小岩の正体と危険性を、インターネットなる文明の利器を通じてあまねく全世界に発表することによって、危機意識に乏しい無防備な現代人を啓蒙しておるわけですからね。僕は。しかも無償でだよ。善人強度がものすごい。

　かかる善人である僕は、善人の常として理不尽な不幸によく見舞われるわけです。つまりこういう次第です。駅前の歩道橋付近で、酩酊したホームレスのじーさんに、この野郎、ふてえ野郎だ、ちょっと待てこら、お前だよお前、などと身に覚えのない因縁をつけられ、しかし平和な暮らしに飼い慣らされて闘争本能、すなわち戦う牙を失った社会の犬、ドッグ、狗、わんこ、今日のわんこ、なのでしたー、であるところの僕は、ただ一つ習得している戦闘離脱スキル「小走りしぱた」のみを頼みとし、そそくさと退散。逃亡。敗走。遁走。背後に聴こえる罵声を黙殺してフェードアウト。ほうほうの体でもって家にたどり着き厳重に施錠、夕飯のカレーを食べてひと心地ついてみると次第に腹が立ってきて、なんなんだ、なんでおれが妙技・小走りしぱたで逃げねばならんのだ、おれは税金とか納めながら絶賛大勤労して御国のために七生報国つくしているのに、なんであんな日がな一日ゆらゆらしているだけの非生産的ボブ・マーレィ風非国民に怒られねばならんのだ。牙だ。牙だ。牙が欲しい。俺にも戦う牙がほしい。とまあ、だんだんそんな復讐者的気分になってきて、そうだ、殺人拳法の特訓をして今度あのホームレスを見たら殺してやろうなどと意気込み、コタツを部屋のはじにずらして、空いたスペースに直立不動。やがておもむろに右手を天空高く突き出し、左手は胸の位置。一瞬、右腕と腰とを深く沈める。そして次の刹那。龍、天空を駈けるが如く飛び上がり、叫ぶその声雷鳴の如し。昇竜拳、と。昇竜拳。昇竜拳。それを幾度も繰り返すことによる反復練習。 かくして、年老いた酔いどれホームレスを斃すために昇竜拳の練習を十三分二十五秒ほど行なった後、「あっ。ぼくって、もしかしてヒマ人？」という厳然たる事実にようやく至り、がっかりして斃れました。

　推理してみますに、もしかしたら、僕は最近ヒマなのではないでしょうか。ヒマなので昇竜拳の修業などにうつつを抜かしてしまうのではないでしょうか。なぜって、忙しい人、あるいは人生が充実している人は安アパートの一室で昇竜拳の練習とかしないはずだもの。

　 たとえば一年前などは大変に忙しく、血を吐きながら毎日夜の十一時くらいまで仕事をしていたのに、今では七時前には帰宅完了、毎日炊事を行なう体力的余裕さえある。ペスカトーレ、和風きのこパスタ、青椒牛肉絲（チンジャオロースー）等、ある程度手の込んだ料理を作ったとて、八時前には食事終了、夕食の後片付けさえ終わってしまい、時間が余る。そんな時、果たして自分は一体何をして余暇を過ごしているのか。思いつくまま列挙するに、ポケモンをする。インターネットをする。アニマルプラネットを観る。紙飛行機を折って飛ばして踊る。アストロロボササ、アクトレイザー、ワンチャイコネクション、ペンペントライアスロン等、思いついたゲームソフトの名前を虚空に向かって叫ぶ。そして昇竜拳の特訓を行なう。など、ろくなことをしていない。僕はいつのまにこんな余暇の使い方のへたな人になってしまったのか。かくも余暇の使い方が下手だから、ストレスがたまり、道ゆく下層民の他愛ない暴言すら耳に留まることとなり、かくして昇竜拳などという入力しづらいコマンド技の習得に励む仕儀となり、うまく入力できないがためにストレスがたまり……といった悪循環に陥っているのではないでしょうか。ないでしょうかというか、疑問文や問いかけどころの話ではなく、断定的結論としてそうなんです。そうなんですよ。

　 そういうわけで、次回は「僕はいかように余暇を楽しく愉快に満喫し、人生をハッピーに過ごしていくべきか」という問題について考察していきたいと思います。とりあえず今日は、「文章のノリがなんとなく町田康先生っぽくなっちゃったナァー」などと思いながらも日記をエイヤエイヤと書きつらねることによって、余暇をたいへんゆかいかつクールに過ごすことができました。やっぱり文章を書くのって楽しいよね。joy！

　 ということは、ああ、そうか。そうだったのか。次回を待たずして答えが出ました。なんか書いてりゃいいんだ僕は。joy！