ここんとこずっと体調が悪くてまいりました。

　 ひと月ほど前に風邪をひいてしまって、それでも熱や体のだるさ、食欲不振といった症状はすぐにおさまったのですけども、咳と鼻水が今だもって止まらないのです。

　 咳やまぬこと一ヶ月。一ヶ月っつったら三十日ですよ。生殖本能に忠実なハツカネズミだったら余裕で二回は出産してます。れんちゅう、一回の出産につき五匹くらいは産むわけですから、となれば一匹のネズ公から十匹もの新しい生命が生まれるほどのそこそこに長い時間を僕はずうっと、ごほんごほん、げほんげほん、ぜいぜい、はあはあ、あっあっ、いやっ、しっ、死んじゃうっ、らっ、らめえーっ、などと言いながら、まあその、最後の二つくらいはうそなのですが、とにかくまあ病みに病みつつ病みながら暮らしてきたわけなのですね。長い。

　 こんなにも長いあいだ咳が止まらないというのは奇怪千万。今まで風邪だと思って病院にも行かずに放置してきたが、ここまで長いともしやこれはただの風邪ではなく、呼吸器系の重篤な疾患なのかもしれぬ。結核、労咳、はたまた肺炎。口を押さえた手の平にこびりついた黒い血。誰も来ないサナトリウムの白い天井。落葉。晩秋。初冬。そして雪。しんしんと。音もなく。闇。浮かんでは消える死のイメエジ……などと拡散してゆく負の妄想にだんだん不安がつのり、病院で精密な検査をしてもらうことにしました。

　で。慶応大学病院の総合内科でもろもろの検査をしてもらい、結果がわかるのは二週間後のお楽しみであるのですが、この際、僕の健康のことなどどうでもよく、いまこの場を借りて皆さんにご報告申し上げたいのは、診察してくれた内科の女医さんは若くて美人だったゼー、ということなのです。いやしかしきれいな人だったなあ。ああいう女性にならば、毎週診察していただいて、胸に聴診器などあてていただいて、恋する僕の胸の高まりをしっかと聴いていただいて、昂ぶる鼓動の意味するところを貴女に気づいていただきたい。好きだっ。
　 あ、もしも僕が完璧健康人間になってしまったならば、僕と女医さんの接点はそこでぷっつり途絶えてしまうので細心の注意が必要ですよね。掛け布団をかけないで寝る、砂場で遊んだあとは手を洗わない、中国産の野菜を食べる、風呂あがりには腰に手をあてて醤油を一気飲みする、などしてコンディションを整え（悪いほうに）、次回の診察に備えようと思っています。

　しかし診察代が一万円って。いくら初診だからといっても高すぎるのではないでしょうか大学病院。さらに、診察が終わってから新宿で四万円のかっけー鞄を衝動買いしたために、本日の出費は総計五万円。いやはや、今日はけっこうお金を使ってしまったにゃー。などと、心の中の台詞（作文でいうところの（）の中の部分）の語尾に「にゃー」をつけてかわいらしいキャラクターを気取り、そうすることによって自己愛をくすぐります。さすればどうなるか。つまり、lovelyかつprettyな自己に対する愛情の念を強めることにより、浪費行動に由来する呵責の念、さらにそこから立ち現れる自己否定のこころ、といったものを抑制することができ、精神の安定を図ることが出来るのです。いわば自己否定と自己肯定とのせめぎあいがそこにはある。あるんだにゃー。

　 そんな精神内冷戦がしばらく続き、それでもおうちに帰る頃には「たまに無駄遣いをする、ちょっぴりドジでかわいい僕」を肯定する勢力がかなり優勢。圧倒的じゃないか「語尾に“にゃー”」戦術は。
　 戦いの趨勢はほぼ決したかと思われたのですが、ネットのニュースサイトで世事の動向をチェックしておったところ、本日がPS3の発売日であったことを思い出し、本日浪費分の五万円があれば「バカ高い」「アホ高い」「クタラギ死ね」と散々けなされまくっていたPS3本体を購入できたことに気づきました。そして戦局急変。自己否定勢力の大逆転勝利。冬将軍の到来だ。僕の精神は自己否定勢力によって占領統治。そして僕は自責の念つのりにつのって醤油を一気飲みして自死。