長年愛用していたiPod miniのバッテリーがヘタりにヘタって、とうとうウォーズマンの継続戦闘可能時間より短くなってしまったのでこれはちょっとコーホーと思い、iPod touch を新規に購入しました。
　 いやしかしそれにしたってiPod touch 、これはすごいですね。文明の利器にも程があるというか、iPod touchさまのおかげで僕のライフスタイルもずいぶんと変わりましたよ。

　アニメ国家日本国民の義務として、新作アニメは幅広くチェックしておる僕ですが、チェックするアニメが多すぎてそれ以外の国民生活の時間を逼迫されておったわけです。帰宅、アニメ観ながらメシ、アニメ観ながらネット、アニメ観ながら寝る、みたいな多忙な日々。それが今はどうだ。スタンド能力『隠者の紫』で念写した新作アニメの動画ファイルをmp4ファイルに変換し、iPod touchにつっこみ、そして家を出る。今まで通勤電車の中で僕が何をしていたかというと、近くに立っている乗客に心の中であだ名を付けて楽しむという、我が人生にとって全くもって無為な時間でありました。しかしiPod touchさえあれば、その無為な死に時間を活用して『とらドラ！』や『とある魔術の禁書目録』や『かんなぎ』や『鉄のラインバレル』や『ミチコとハッチン』や『魍魎の匣』や『天体戦士サンレッド』が一話ぶん観れてしまうという。電車の中で『とらドラ！』を観て貴重な時間を有効活用とは、ははは、いかにも仕事の出来るかっこいいアラサー会社員といったかんじですね。うーん、われながらかっこいい。よく同じ車両に乗り合わせる“パリは霧にぬれて”(そういうあだ名のOL)から潤んだ視線を投げかけられる日も遠くないのではないだろうか。

　iPod touchの活躍はそれに留まらない。みなさんも会社や学校といった集団生活の中で経験することがあると思うけれど、正午十二時くらいになるとまわりの人が一斉にどこかに出て行ってしまいしばらく戻らなかったりすることがあるでしょう？　あれはね、どこかで誰かがヤバい音律の笛を吹いているとか、サイコフレームの共振効果によってアムロ大尉のいる宇宙へと飛び立たずにはいられなくなったとか、きみ以外の人間全員が正午の礼拝を聖典で定められた宗教の信者とか、そういうことでは全然なくって、実はみんなあの時間帯は仕事を中断し、どこかお外へごはんを食べに行っているわけなんだね。もちろん、正午十二時から小一時間ほど食事と休憩を取る権利は君にも与えられているのだから、君も明日から他にならってそうするのがよいだろう。

　 ちなみに僕の場合、お昼休みはベローチェでサンドイッチをわしわし食って過ごすわけです。iPod touchがなかった今まで、ベローチェで僕が何をしていたかというと、てきぱきと働く女性店員をぼうっと眺めながら、あー、あの店員さんけっこう可愛いなあ、そういえばさっき、ハムサンドと紅茶を注文したとき、正しくは「レモンはお付けしますか？」と訊くべきところを「メロンはお付けしますか？」と言ってしまい顔を赤らめて言い直すさまはとりわけ可愛かったけれど、一日に何百回も発しているであろう「レモン」という馴染み深い単語を、よりにもよって庶民とは縁遠い果物の代表格であるメロンと言い間違うことなどあるだろうか、世の中にはしばしば不思議な同調現象というものがよく起こるらしいが、僕は先ほど紅茶とハムサンドを注文する時に店員さんの胸がなんとなく視界に入り、(果実にたとえるならばスイカやメロンは言い過ぎではあるが、さしずめグレープフルーツといったところであろうか)などという不埒なことを考えていた、そういった邪念が何らかの原因で彼女の思念とシンクロし、かくてあのようなメロン発言とあいなったのかもしれぬ、してみれば、あのこまごましく立ち働く勤労店員にいらぬ恥をかかせてしまったのは俺だ、俺の邪念であり唾棄すべき煩悩だ、こんな俺にベローチェで茶を飲む資格などあるだろうか、おそらくないだろう、どころか生きてる資格さえないといってよい、死のう、もう俺は死んでしまおう、ハムサンドを食べ終わったらティーバッグの紐で首をくくって死んでしまおう、といったかんじで、基本的に何やら思いつめたことばかり考えて過ごすという、我が人生にとって全くもって無為なお昼のひと時でありました。しかしiPod touchがあれば、その無為な死に時間を活用し、見るヒマがないままになっていた『マクロスF』を一気に二話も観られるではないか。やったぜ。キラッ☆　ってなものです。お昼休みの一秒たりとも無駄にしないとは、もはやエリートサラリーマンの域ですね。ベローチェで『マクロスF』を観ている僕は、いつ大企業からヘッドハンティングされても全く不思議ではないといえるでしょう。むしろ、まだされていないことのほうがふしぎだ。

　そして仕事が終わったアフター５。ここからが大事です。iPod touchのない時代は「家に帰って観終わっていないアニメを鑑賞しなければならない」という強迫観念に囚われていたため、仕事が終わってから誰かとご飯を食べに行ったり遊びに出たりすることもなく、まっすぐ家に帰って体育座りでアニメをじっと鑑賞しておったわけですが、今にして思えばそんな生活は間違っていた。暗すぎる。でも、そんな不健全な暗黒生活から、iPod touchは僕を光の世界へと救い上げてくれたんだ。
　 光に包まれた今の僕は、さりとて誰かとご飯を食べに行ったり遊びに出たりすることもなく、仕事が終わるとまっすぐ家に帰り、今までアニメを観ていた時間を活用してPS2で『スパロボZ』をプレイし、同時にDSで『三国志大戦 天』をプレイするという輝かしい生活を送っています。光！