日記風

4月12日

   ここを更新するのは三年ぶりぐらいなので誰も読んでないと思うんですけど、書きとめておきたい事柄があります。

   ここの日記にも何度か登場したことがありますが、実家でボーダーコリー（新約『ドーン・オブ・ザ・デッド』に出てくる犬種）を飼っていまして、名前はネス。スコットランド産の犬種なので、スコットランドでいちばんクールかつソリッドな地名であるネス湖から取りました。また、僕も弟も『MOTHER』シリーズ（主人公のデフォルトネームのひとつが「ネス」）が好きだったこともあり、大人も子どももおねーさんも、みんなに好かれるナイスな犬っころになりますように、という願いも込められていました。

    そのネス公のやつが、4月10日の夜中に死んでしまいました。
肺がんを患って10歳で死んだわけで、10歳といえばワン公的には往生ランクBくらいの中往生ではあるんでしょうけど、わりかし急にそそくさと死んでしまった感があるので残された人間サイドとしてその死を受け止めきれずこの数日間を過ごしてきました。

    僕が最後にネスに会ったのは３週間ほど前。その時はまだ癌が見つかっておらず、おうおう、トイレじゃないところでおしっこをしたりやたら寝てばかりいたりと、牧羊犬のくせして自堕落さに磨きをかけてきたのう、どないなっとんじゃい、などと脇腹をつつきまわしていたものでしたが、思えば生来のやせ我慢気質ゆえじっと苦痛に耐えていたのでしょうか。弟によれば、事切れる直前になってようやく苦悶の声をあげたそうです。本当にまったくもってばかなやつで、そんなだから遠くにいる僕はお前に何もしてあげられず、お別れを言うひまさえなかったのだ。弟と母親が電話の向こうで泣いているのを聴いても、準備のできていなかった僕は正しく泣くことが出来なかったのである。

   ネスが死んだ日、仕事が終わって家に帰るなり部屋中探しまわって前の携帯、その前の携帯、さらにその前の携帯をかき集めて、ネスの画像や動画を回収して、ネスの在りし日の姿がわずかでも書きとめられていないかとこのサイトの日記を読みまくって、そんなことをしていたらだんだん気が滅入ってきて、明るい音楽などはとても聴けなくなってしまって、『這いよれ! ニャル子さん』の主題歌などが入っていた脳天気なプレイリストはiPhoneから消してしまって、代わりにネスにゆかりのある『MOTHER』シリーズのサントラをつっこんで、寝不足だったので早々に寝ました。

    次の朝、出勤中に昨晩作ったプレイリストを聴いていたら『MOTHER2』のエンディングテーマ「グッドフレンズ/バッドフレンズ~スマイルズ・アンド・ティアーズ」が流れてきて、この曲の最後の最後でぽつりとつぶやかれる「I miss you」のひとことがなんかものすごく突き刺さってきて、朝の満員電車のなかで嗚咽を漏らしそうになってしまって、糸井さんと鈴木慶一さんは何度僕を泣かせれば気が済むのかしらんけどマジすげーなー、などと感心してしまいました。新作はやく作ってください。

   でも、きっとそのときの悲しささえたぶんマックスではなくて、頂点はきっと、GWの帰省時ではないかと今からおそれおののいています。あの犬は僕が帰省すると、三分間くらい限定で気が狂ったように喜んでくれて（その後唐突に飽きて、僕に尻を向けて寝る）、思いっきし飛びついてくる。喜びの権化と化した犬は勢いあまって障子を突き破り、僕は帰ってきたそうそう祖母に怒られネスと一緒にしょげる、という恒例行事があったのですが、そのおきまりのイベントがもう発生しないことを実際に確認したとき、僕は泣かずにいられるだろうか。

……というね。そんな文章を書いていたらどんどこ悲しくなってきてしまって、帰省を待たずして泣いた泣いた、大いに泣きました。ようやく思いっきり泣けたので、だいぶすっきりしたような気がします。

   そんなこんなで、ネスの野郎のせいで僕はたいへん悲しい思いをしたわけだけど、そのへん差し引きしたところでもって、僕はネス公と人生の一時期を過ごせたことをなにものにもかえがたく本当によかったと思うよ。僕がこの十年を比較的ゆかいにすごせたのは、おまえの存在によるところが少なくないような気もするし、お前は僕のおかげでジャーキーとか食えたりしたし、おれたちいわゆるwin-winの関係だよね！やったね！本当に楽しかったよ！さよなら！ありがとな！犬は字を読めないという説が有力ではあるけれど、死んだら霊界とか霊力のなんかがどうにかなって読めるようになってるかもしれないし、僕はお前にも読んでもらえたら嬉しいような気がして、本当に久しぶりに日記を書いたよ！さよなら！ありがとな！