ギアナ高地奥地の巨大畸岩ペドラピンターダに潜む精霊クルピラの魂が輪廻転生のすえ我が息子ピラ助として生を受けたことは業界ではつとに有名ですが、そのピラ助も今月で満2歳となりまして、西はサンダーソン博士の奇現象調査協会、神智学協会、東方聖堂騎士団、東はSANKIワールドワイド（藤岡弘、隊長の事務所）から学研ムー編集部まで、古今東西の秘密結社から続々と祝電を頂戴しています。あっ、ムー編集長の三上チャン、プレゼントありがとね、また今度飲みに行こうよ！（私信）

　しかし僕はびっくりしましたね。今まであまり幼児との接点がなかったせいか、2歳児なんてせいぜいビッグキン消しくらいの大きさと認識していたのですが、ちょっとあなた、それはとんでもない事実誤認ですよ。あのね、いいですか、満2歳といったらもう、そのへんの小動物以上の大きさと力を、超小動物級の体躯とパワーを備えているのですよ。しかもタスマニアデビルのように獰猛で凶暴ときたものだ。スポロンを飲んでいる時こそ天使のような笑みを称える2歳児は、スポロンを飲み干した途端にジト目ワニ目ギョロ目のビーストモード2歳児へと変貌を遂げ、2本目のスポロンを出し渋るぼくに対して殴る、蹴る、噛みつく、おちんちんをつかむなど残虐超人も真っ青の残虐ファイトを繰り広げるのである。

　かつて極真空手の創始者大山倍達先生は、練磨した達人であっても本気の犬に勝つのは難しい、日本刀を手にして初めて人類は猫と対等になる、といったようなことを仰っておられたものですが、本気を出した2歳児に対し、男ざかりの40歳児こと僕にあらがうすべは果たしてあるのか。ない。いや、今のところはかろうじてある。スポロンのおかわりを要求し暴れまわる野猪のような2歳児を封じこめるには、それを上回るパワープレイをもって制すればよいのである。そして僕にはそれを行使しうるパワーがある。パワー育児である。現時点において、僕の育児強度は2歳児のイヤイヤ強度に勝っているのである。しかし、年経た猫が猫又となり妖力を得るがごとく、年経た2歳児が3歳児となり更なる力を得たとしたらどうだろう。さらに年を経て４歳児になったとしたら。対する僕の膂力は今や下降線上にある。上り調子の2歳児と下り坂の40歳児の成長曲線が交わるXデーはいつか必ずやってくる、そしてそれはすぐ間近に迫っているかもしれないのだ。

　しかしである。人造人間セルなみの急成長によって力を増していく一方の息子に対し、いつか負けるとわかっていても、僕は恐れず立ち向かっていくだろう。それが育児というものさ。悲壮な決意を胸に秘め、父は今日も我が子に立ち向かう。見ていてください大山館長。「正義なき育児は無能なり。力なき育児はまた無能なり」……あなたは確かこんなことをおっしゃいましたね（言ってない）。よいか息子よ、スポロンは一日一本までだと言っているだろう！　でやーっ！（虚空めがけて飛び蹴りを放つ僕。バックに燃えるような夕陽。逆光で僕がシルエットに転じたところで画面静止。力強い筆文字で「終劇」の文字）