4月21日(月)

 探検熱、いまだ冷めやらず。






  ミコスペ! 巫女さん探検シリーズ
 
●●●登場人物●●●

ウズメさん
巫女さん(21) 
年長者で国粋主義者 
主な口寄せキャラはトキワ荘の人々


サグメちゃん
巫女さん(18) 
ケミカルなナゴムギャル 
主な口寄せキャラはモンゴルの英雄チョイバルサン

シコメちゃん
巫女さん(14) 
PTSDの幽霊族
主な口寄せキャラは低級動物霊

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「我らが藤岡探検隊は野生を磨き、そして五感を研ぎ澄まし、ヅォン・ドゥーと呼ばれる人間をも丸呑みにする巨大生物を追い詰めることに成功した!」


「あーあ、しょっぱなから田中信夫ナレーターをひっ憑けちゃって、テンション高いなあ」


「我々は今回の探検シリーズの視聴を通して危機センサーの重要性を学んだ。そして我々自身もまた“野性”という名の荒海に漕ぎ出す果敢な船乗りの一人であると自覚することが出来たのは、紛れもない探検の成果であった!」


「まあ、いいよ。今回は多めに見たげるよ。よっぽど興奮しながら観てたんだろうねえ。なんたってアンタがアタシに電話かけてきたのなんて、小渕元首相が取り憑いた時(ブッチホン)以外は、こないだの晩が初めてだもんねえ。うんうん」


「スイスペが終わった直後でしょ。あたしの電話にも着信履歴が入ってたわ。失神してたから出れなかったけど」


「失神って、そんなまさかスイスペで!?……って、あっ、ウズメ姉さんなんで水干なんか着て……んっ、あれっ? アタシも着てるよ水干!?」


「ふふふー」


「って、あれ? あれ? そういえばここはドコ? いつもの社務所じゃないよ! ここって屋外じゃん!」


「ふふふー。実は、先日の『藤岡弘、探検隊シリーズ』に触発、というかむしろShock-Heartsされてしまったあたしたち仲良し巫女さん三人組は、藤岡隊長の言い付けどおり野性を磨くため、新たに探検隊を結成したのでしたー!」


「夢かと思われていた巫女さん探検隊の結成が、この日ついに現実のものとなったのである!」


「ちょっと、Shock-Heartsされたのはアンタら二人だけでしょ。勝手に仲間に入れないでよ! それになんで水干なんか着てるのよー!」


「水干スペシャル! 略してスイスペ!」


「ギャガーン!」


「そうそう、そのSE(サウンド・エフェクト)よ! なによ、じつはノリ気じゃなーい!」


「そんなことよりここはドコなの? 何を探しにいくの?」


「うむ。実は、最近目撃が多発している伝説の魔獣を捕獲するため、我々探検隊は日本最後の秘境・広島県までやってきたのよ。いや、やってきたのだ!」


「あーあ、ちゃっかり隊長ポジションとってるし。シコメは信夫さんだし、アタシには渡辺隊員役しか残ってないじゃん」


「サグメ隊員の注意力散漫な性格が、この先何度も探検隊を危機におとしいれることになる!」


「やめろ! 信夫さんの声でそういうこと言うな!」


「さて、我々はここから更に奥地の比婆郡に出没するという謎の猿人“ヒバゴーグ”を追跡するわけだが」


「そりゃヒバゴンだって! 本家スイスペ流に勝手に名前を変えちゃダメだよ」


「“黄泉の墓守”として地元民に恐れられそして祀られる伝説の魔獣ヒバゴーグを発見し捕獲するため、我々探検隊はいま旅立った!」


「だから、勝手にてきとうなキャプションつけんなって。信夫さんの声で」


「もう、いちいち話の腰を折る娘ねえ。そんないちいちつっこんでいたら……あっ!」


「と、その時! ウズメ隊長の目が光った!」


「サグメっ! 肩っ!」


「えっ? ……あーっ! ぎゃー! さっきから肩がズッシリ重いと思ったら、山じゅうの自殺者霊たちがてんこ盛りにとり憑いてるー! ぎゃー! ぎゃー!」


「ぶっ、あんなに驚いてる、あはは」


「ゲラゲラゲラ」


「……はあっ、はあっ。い、いくら巫女でも、あんないっぺんに取り憑かれたらヤバいでしょー! 過剰な仕込み演出はやめろー!」


「あー、面白かった。おかげですごくいい画が撮れたわ。さ、次いきましょう」


「この山をひとつ越えたところに、ヒバゴーグの目撃が多発している村がありマス」


「うわっ。あんたは誰だ」


「ああ、この方は通訳兼現地ガイドのヒロ・ポン・ムスービさん。日系三世」


「いやいや、ここは広島でしょ。通訳とかっていらないんじゃ」


「ジャングルの奥地に住むシゴウシタル族に話を聞けバ、有力な情報を手に入れられルはずデス。ギギギ」


「広島県民をバカにしすぎ! 百歩譲ってヒバゴンがいるとしても、いくらなんでも広島に原住民はいないよ。ガイドはガイドで、ヒロポンでもやってそうな顔色だし。すでに弱ってるし。あぶねーよ」


「ばかやろうっ!」


「ぎゃっ。いたいっ!」


「あらゆる自然の猛威が手ぐすねひいて待ち構える密林において、信じられるのは探検隊のメンバーだけである。しかし、そのメンバーがお互いを信頼しあうことが出来なければ、隊内に不和が生じ、それはすなわち、隊の全滅を意味する。心を一つにしなければジャングルの中で生き延びることは出来ない、隊長はそれをわからせるために、愛する隊員にあえて手を上げた!」


「ごっ、ごめんなさい隊長。アタシ、気が立っていたとはいえ初対面の人に対して『ヒロポンやってそう』だなんて失礼なことを……」


「ばかやろうっ! ヒバゴンじゃなくてヒバゴーグだと、何度いったらわかるんだっ!」


「ええーっ、そっちのほうで怒ってたの!?」


「主にそっちよ!」


「もういいよ。どうだっていいよ」


「ばかやろうっ!」


「いたいっ! もう、なんなのよ!」


「そんな投げやりな態度でどうするのっ! もっと危機センサーを研ぎ澄ますのよ!」


「知るかー! なんなのよ危機センサーって! 持ってないよそんなもん! 持ってるもんかー! 持っててたまるかー!」


「危機センサーも持っていないだなんて、まったく、いまどきの巫女ときたら。嘆かわしいわあ」


「シコメは持ってるよー」


「ねー。ごくふつうの野性を忘れないでいる若者だったら、危機センサーくらい持ってるわよねえ」


「前提の時点でごくふつうではないよ」


「あのね、危機センサーっていうのはね、自分が危険になりそうなトキ、ビーって、教えてくれるんだよ」


「そうそう、そうなのよ」


「金星のほうとかから、電波がビーッとかとんできて、それを受信するとね、べつの銀河系から来た超高度な知的存在のメッセージがね、いろんなことを教えてくれるんだよ」


「それは、ちょっとちがうかもね」


「地球はやがて滅びるから、その前にすぐれた地球人だけが彼らの宇宙船に乗せられて、スターチャイルドになって新しい世界を創るんだよ。宇宙船の搭乗名簿にはシコメの名前も入っていて……」


「えいっ!」


「げぶっ」


「わっ、白目……」


「密林の毒気にあてられて狂狼症〔アモック〕となってしまったシコメ隊員はここでリタイヤ、この場に打ち捨てて我々は先に進むことにする! わかったわね!」


「は、はい!」


−数時間後−


「ふう、なかなかシゴウシタル族の村にたどり着かないわね」


「ホントにこのルートでよかったの?」


「うーん、ムスービ氏の話によればこのへんのはずなんだけど」


「アイツはダメだよ、全然信用できないよ! さっきなんか野生のケシの群生地に案内しやがるし、そのうえ当人はヒロポン打ちすぎで中途リタイヤしやがるしさあ。ありえねーよそんなガイド」


「まあまあ、とりあえず計画を練り直しましょう。あそこに座るのにちょうどいい大きさの石があるから、あの上に腰掛けて相談しましょう」


「えっ、あの石? ……なんか、あの石からすごい妖気を感じるんだけど」


「そう? 鼻がつまっているからよくわからないわ。どっこいしょ」


「姐さんが石に腰掛けた途端、空に黒雲が湧き出て、雷鳴が轟きはじめたんだけど」


「そう? なんかあるのかしらこの岩? ぺしぺし」


「あっ、『三次殿ノ塚』って書かれた立て札がこんなところに倒れてた! ってことは、ここって比婆郡じゃなくて三次市の比熊山じゃん! ルートめちゃくちゃじゃん! ……ってことは、ってことは、これって触ると祟りがあるっていう、かの『稲生物怪録』にも出てくる祟り石!!」


「ぴかーっ」


「あーーっ」


「はははははは」


「こ、この怪物……」


「こ、このお方は、妖怪の頭目といわれる……」


「この怪物の外見、ヒバゴーグの目撃証言とはずいぶん食い違うわっ!」


「ばかー! このお方とヒバゴンなんかを一緒にしたらバチが当たるわよっ!」


「ヒバゴーグでないということは……も、もしやヤマゴン……ヤマゴーグ?」


「あんたという巫女はー」


「じゃ、じゃあ、クイゴーグ!? クイゴーグね!?」


「…………」



 ということで、次回からは社務所に『稲生物怪録』ばりの怪異や妖怪が続けざまに発生します! 不定期に続く!