|
|
|
「ふう……こまったわあ」 |
|
「どうしたのウズメ姐さん？ 神社の社務所にアンニュイなため息なんて似合わないよ」 |
|
「それがねえ。これ見てちょうだいよ」 |
|
「なにこの写真の山！ これってもしかしてぜんぶお見合い写真？」 |
|
「そうなのよ、親戚のおばさんがね、写真だけでもってしつこくて……」 |
|
「えー、ウズメ姐さん結婚しちゃうのー！？」 |
|
「しないわよう。ま、よさそうな人がいれば会ってみてもいいかなぁ、くらいは思ったんだけどね。えへへ」 |
|
「こんなにたくさん縁談の話があって、それでいて気に入った男が一人もいなかったの？ うーん、ちょっと理想高すぎとちがう？」
|
|
「そんなこというならサグメちゃん、実際に写真をながめてごらんなさいな」 |
|
「いいよ、アタシがいいオトコみつくろったげる。 ……おっ、この人なんかどう？ 『27歳・医者』だって！」
|
|
「ああ、その人ね。経歴も顔も申し分なしなんだけど。まあとりあえず写真を見てみて」 |
|
「どれどれっと……うーん……そうだね、たしかに顔もイケてるし身長も高いけど……お見合い写真でバルシャークのポーズを取っているっていうのは……いささか問題かもしれないね」
|
|
「他にはホラ、この人なんかもかなりかっこいいのよ。職業は弁護士だし。でも、どうして写真はパロ・スペシャルがキマってるシーンなのかしらね」
|
|
「しかも技をかけられてるほうだしね。せめて技をかけるほうに回ろうぜー。っつーか誰だよ、弁護士にパロをかけてる奴は？」 |
|
「あっ、この人どこかで見たことあるよー。“ヒモロギ・26さい・職業フリーライター”だって」 |
|
「うそくせー。フリーライターとかって、ぜってー無職の隠れみのだって。しっかし……コイツの写真もひどいなあ。ソテツの幹にしがみついて満面の笑みをたたえている時点で意味不明だけど、そのうえ背景にUFOとかスカイフィッシュとかフライングヒューマノイドとか地縛霊とか写りこみすぎ！ というか合成しすぎ！」 |
|
「ね？ こんな人ばっかりなのよ。あーあ。やっぱりお見合いで理想の結婚相手を探すのは無理な話なのかしら」
|
|
「うーん、そのへんのところは実際に見合い結婚をした人じゃないとよくわからない部分があるよね。ここはやはり経験者に訊くしか！」
|
|
「訊くしか！ ってことなら、シコメがお見合い結婚の経験者霊を口寄せちゃうよ！」 |
|
「おう、そうか。いけーっ」 |
|
「剛力招来、超力招来、たーっ！」 |
|
「……いったい誰を口寄せたのかしら？」 |
|
「あたしよあたし、マリー・アントワネット！」 |
|
「えーっ。それってお見合い結婚っていうか、王朝どうしの政略結婚！」 |
|
「どっちも似たようなもんじゃない。細かいことはいいっこなしよ。でもねホント、ウズメっち！ 気をつけて！ 恋愛結婚でもお見合い結婚でも、けっきょくは女の幸せはオトコ次第なんだから、きちんと考えて相手を選ばなきゃダメっ！ ダメなのよっ」 |
|
「はあ」 |
|
「わりかしフランクな王妃だな」 |
|
「あたしも旦那で失敗したクチだから言ってんの。あたしホントはね、他に付き合っているオトコがいたし、ブルボン王朝なんつうお菓子メーカーみたいな名前の王朝なんかに嫁ぎたくなかったのよ」
|
|
「はあ」 |
|
「でもね、やっぱりブルボン王朝の資産は魅力じゃない？ それでまあ、いいかな？ みたいなノリで籍をいれたんだけど、もう散々だったわよ。そりゃまあ、最初はね、うなる資産に囲まれて日夜ごうかな暮らしに明け暮れたわよ。もう毎晩ドンペリ、みたいな？ ホストのオトコのコたちに囲まれて、あそーれ、ドンペリドンペリ、ハイハイハイハイ、みたいな、それはもうドンペリコールの嵐」
|
|
「ちょうどバブル期のころですね」 |
|
「ほんとあの頃はやりたい放題だったわ。ロココ時代の頂点に君臨する王妃として、当時はブルボンのヘッドロココと呼ばれたものよ」
|
|
「ブルボンというかロッテですけどね、それは」 |
|
「ところがよ。そっから先は転落人生なわけ。最後は愚民どもの目の前で素っ首切り落とされるし、マジ最悪だったわ。ギロチンとかって、マジ最悪！ それもこれもすべては安易な結婚のせい！ キー！」 |
|
「うーん、安易な結婚の末路はギロチンの露、いうわけね。気をつけなきゃ」 |
|
「極論だけどね」 |
|
「そう、あたしの教訓を活かして、あなたたちは素敵な相手を見つけるのよ。くれぐれもあたしみたいにはならないように……」 |
|
「ばかっ！」 |
|
「あいたっ！ ど、どうしてぶつのよ！」 |
|
「マリー王妃！ いいえ、もはや腹を割って話した女どうし、親しみをこめてマリりんと呼ばせてもらうわ！ マリりん！ いい？ そんな自分を卑下するような言い方しちゃダメ！」
|
|
「でも……ねえウズメっち？ あたしの恋愛適齢期って、もう終わっちゃったのかなあ？」 |
|
「ばかやろう、まだ始まってもいないわよ」 |
|
「ほ、ホント！？」 |
|
「いや、終わりまくってるよ。そもそも死んでるじゃん！ 首取れてるじゃん！」 |
|
「いいえ、たしかに現世におけるマリりんの乙女心は断頭台に露と消えたかもしれない。でも、霊界で新しい恋を探せばいいじゃない！ 新しい恋人というか恋霊を！」 |
|
「そうよ、そうよね！ さすがだわウズメっち。現世がダメなら霊界で恋を！ “パンがないならお菓子をお食べ”的逆転の発想だわっ」 |
|
「いい？ 今からあたしが、マリりんの好みのタイプの独身霊を降霊してあげるから、首尾よく彼のハートをゲットするのよ！」 |
|
「うん、マリりん頑張る！」 |
|
「ちなみに好みのタイプは？」
|
|
「金持ち！ ブルジョア！ プールつき豪邸！」
|
|
「オッケー、いくわよっ！」
|
|
「イエー、玉の輿ー！」
|
|
「少しは初婚の反省をふまえろよ」
|
|
「♪ラララ薔薇は薔薇はっ！」
|
|
「♪気高くー咲いーてー」 |
|
「……」 |
|
「♪薔薇は薔薇はっ！」 |
|
「♪美しくー散るー」 |
|
（やっぱり散るんだ……） |
|
「オンバラモンギャラモンジュテームオスカルソワカッ！」 |
|
「……どきどき。いったいどんな殿方が……」 |
|
「へけけ」 |
|
「ど、どなた？ あたしの白馬の王子さまは、いったいどなたなのっ？」 |
|
「へけけ、ぽっくんぶぁーい」 |
|
「……いつも思うんだけど、マンガのキャラを降霊するメカニズムっていったいどうなってんだよ。頼むから実在の人物を降ろしてよ」 |
|
「ああっ、玉のように弾む美声！ とろけそうだわ」 |
|
「へけけ、いいなけつー！」 |
|
「ああっ、おしりを無理やりこすりつけてくるなんて、なんて強引なお方……でも、前の旦那にはなかったその強引さがまたステキ！（前の旦那のルイさんとの初夜は結婚の数年後であったという史実）」 |
|
「しっかりしろよ、マンガのキャラだぞ！」 |
|
「へけけっ、平民どもめ。パンがないなら、いたらきもちを食べればいいぶぁーい」 |
|
「ああっ、あたしとおんなじ帝王学！ 価値観がおんなじって、結婚生活には一番大事なこと！ すべてがあたしの理想どおりの方だわっ……あ、あたしをいいなけつにしてくださいっ！」 |
|
「どぼちてっ。真珠られない（茶魔語）！」 |
|
「だってあたし、アナタのことが……あ、愛スクリーム（茶魔語）！」 |
|
「……そりはほん時計（茶魔語）？」 |
|
「……好きなんデスク（茶魔語）！」 |
|
「なんて骨体（茶魔語）！ んなぱかな。んなぱかな。んなぱかたりな（茶魔語）！」
|
|
「どうしナスった（茶魔語）？」
|
|
「ぽっくんとってもチワワせ（茶魔語）！」 |
|
「ほんとうによカッパ（茶魔語）」 |
|
「なんじゃそりゃあ」 |
|
「これ、そこな貧保耐三」 |
|
「びんぼっちゃま呼ばわりはあんまりだよ。うちは中流家庭の中の中です！」 |
|
「あたしとダーリンは燃えるような恋に忙しいので、独り身でヒマなあなたがオリジナル茶魔語など披露して今回のオチとしなさい。わかったわね？」 |
|
「だれがそんな恥ずかしいことを！ ぜってー言わないからな！ ぜったいしゃべらないぞ！ えーい、必殺・黙秘拳（権）！ ……っていうのはどうかな？」 |
|
「それは茶魔語じゃなくてあほ拳ぶぁい」 |
|
「ソー、ソー、ソー、ブルース・ソー」 |
|
「…………」 |
